「LGBT法案」保守派に配慮の“政治の議論”と当事者現場の落差【報道特集】

「LGBT法案」保守派に配慮の“政治の議論”と当事者現場の落差【報道特集】

LGBTQなど性的マイノリティーへの理解増進を目的とする法案は、保守派に配慮したかたちに修正されて、12日、自民党内で了承されました。
法案は本当に当事者に寄り添ったものなのか。だれもが生きやすい社会とは何か。
当事者や企業の現場から考えます。

■ 「見るのも嫌だ」法案提出のきっかけになった当時の総理秘書官の発言

膳場貴子キャスター
「自民党の性的マイノリティに関する委員会も、意見の集約に向け大詰めを迎えています。
議員たちが次々と部屋に入っていきます」

性的マイノリティへの理解を促す「LGBT理解増進法案」
自民党で連日、議論が行われてきた。

この法案は2021年、超党派で合意していたが自民党保守派を中心に批判が集中。国会への提出が見送られていたものだ。

ところが2023年2月、岸田総理の秘書官が…

荒井勝喜 総理秘書官(当時)
「見るのも嫌だ。隣に住んでいると思っても嫌だ」

LGBTや同性婚について、こう発言したことを受け岸田総理が法案提出の準備を指示した。

■保守派へ配慮した修正… 自民党内で議論された2つの文言

長い議論の末、5月12日、自民党の委員会で法案が了承されたものの、それは保守派に配慮した修正案だった。

自民党・宮澤博行衆院議員(法案に慎重)
「行き過ぎた人権の主張、もしくは性的マジョリティー(多数派)に対する人権侵害、これだけは阻止していかないといけないと思います」

修正の大きなポイントは2つ。
「差別は許されない」という表現が「不当な差別はあってはならない」に変更されたこと。
そもそも差別という言葉には、「不当に扱うこと」という意味が含まれている。

なぜ、不当という言葉を入れたのか。法案に慎重な西田政調会長代理は。

膳場キャスター
「今回文言が修正された“不当な差別”、これはどういう意味なのか改めて伺えますか?」

自民党・西田昌司政調会長代理(法案に慎重)
「なんでも差別という言葉を出したら、少しなにかあったら差別だ、差別だということじゃないと、そういうこと」

膳場キャスター
「不当でない差別は認められる?」

法案に慎重 自民党・西田政調会長代理
「いや、そうではなくて。言葉遊びのようなかたちになってきてよくない。だからそういう差別という言葉1つで世の中がぎくしゃくしないように。もう少しおおらかな表現という意味で“不当な差別”ということになっている」

法案の推進派で、2021年、自民党のまとめ役だった稲田元防衛大臣は。

自民党・稲田朋美 元防衛大臣(法案推進)
「差別は不当なものなのですけれども、それをより明確にしたものだというふうに理解を致しました」

もうひとつのポイントは、「性自認」という言葉を「性同一性」に変えたこと。
「性自認だと、男性が女性だと言い張れば、女子トイレに入る恐れがある」などの指摘もあったという。

法案推進 自民党・稲田 元防衛大臣
「この法律とは全く関係がなく、しかもむしろ犯罪とトランスジェンダーの問題をごっちゃにする非常に悲しい議論だったなと私は思います」

自民党は来週、党内の手続きを終え、G7前に国会への法案提出を目指すことにしている。

■「会社の制度を使って今は幸せ」企業にも広がる理解

すきやきなどを提供する飲食店「ゆず庵」
この店の店長を務める清水亜利守さん(31)は、これまでテーマパークのホテルで勤めていたが、働きやすさを求め、2年前に転職してきた。

ゆず庵 練馬光が丘店 清水亜利守 店長
「元々、小さい頃から綺麗になりたいとか、可愛くなりたい、みたいに思っていたんですけども、私の場合は、心は女性なんですけど。性嗜好、好きな相手が女性だったので、今まで、もう27歳まで、ずっと自分は男だなって思ってたんですね。けど、27歳の時に、心境変化のときに、やっぱり自分の中で『女性っぽいな』という自認があった」

清水さんは男として生まれ、21歳で結婚。2人の子どもがいる。しかし、3年ほど前から女性としての自分もいることに気がつき、今では、自らをLGBTではなく、性を男女の枠に当てはめない「Q=クエスチョニング」としている。

店の制服は、以前は男性用・女性用と分けられていたが、現在は統一。
トイレも、男性用、女性用の他に、オールジェンダー用の3か所が用意されていた。

同僚は、清水さんについて…

清水さんの同僚
「もちろん、人によって違いがあるので、その個性として、亜利守さんを受け入れているかなと思います」

こちらの会社では、LGBTQの当事者が多く働いていて、社内には、当事者専用のコミュニティも作られている。
この日、コミュニティに参加したクエスチョニングの久保田さん。

ゆず庵 店長 久保田若菜さん
「会社の制度を使って今は幸せいっぱい。一番幸せだと自慢しておきます」

久保田さんは、“法律婚カップル”と同等の待遇を受けられる社内の『ライフパートナーシップ制度』を利用。結婚祝い金や、配偶者手当などが支給される。

ゆず庵 店長 久保田若菜さん
「今までだと、ぼんやり濁してた『彼女が…』とか何か『パートナーが…』って言ってたのを、はっきり『家族』って言えるようになった。『家族がいるから早く帰りたい』とかって、はっきり他の方々と同じような主張ができるようになったっていうのは、一つ活力に通じるところかなっていうのはあります」

ゆず庵 練馬光が丘店 清水亜利守 店長
「うちの本当に会社の企業理念、これが『かっこよく生きようぜ』みたいな、『素敵に生きようぜ』みたいなのがすごくあって、そうやって思うからこそ、私も今堂々と働けているんですよ。できる環境だったりとか、できる制度とか、何か後押しできるものが1個でも多くあればあるほど、そういう人たちが生き生きする機会ってのは増えてくる」

清水さんが店長を務める『ゆず庵』を運営しているのは、『焼肉きんぐ』などを手掛ける『物語コーポレーション』

9年ほど前からLGBTQの当事者を積極的に採用し、わずか5年で店舗数がおよそ1.4倍になるなど業績を伸ばしている。

物語コーポレーション 横浜任 人材開発部部長
「セクシャルマイノリティの方を採用したいとか、その方たちを大事にしなきゃいけないという思いではなくてですね、1人1人が活躍するために、阻害要因があるなら、その阻害要因を外したい。その人の能力が十二分に発揮できる環境が、そこでできてくるんです。色んな考えが生まれて、議論することで、大きなアイディアの選択肢の中から一つの方向性を導き出せる。その選択肢を多く維持できていることが、今の成長の元になっている」

■当事者の雇用だけではなく「従業員の理解」も促進

都内で介護事業を行う会社『more』では、業界の人材不足を見込んで、3年前にLGBTQの雇用促進を表明した。いまでは当事者から、毎月5人ほどの応募があるという。

倉田広志代表
「今後の人材難に向けて、採用リソースとして、何かチャンネルがないかというところで、LGBTQというアンテナが立った。介護の仕事の本質っていうのが、その方の尊厳を守るとか、その人らしさを守るっていうのが大前提にありますので。LGBTQ当事者の方々のその人らしさを大切にするというのも会社として当然守っていかなきゃいけないことだなと思ってます」

カミングアウトする範囲は、当事者の希望を尊重している。そのため、撮影に入ったこの現場に当事者がいるかどうか、私たちにも明かされていない。人事担当者によれば、実に従業員の1割にあたる12人がLGBTQと表明しているという。

この会社で取り組んでいるのが「従業員の理解促進」だ。カミングアウトをした時にどう対応してほしいのか、など当事者たちの意見を集約し、社内報で発信している。

実際にカミングアウトを受けた従業員は…

カミングアウトを受けた従業員
「どう接したらいいかなとか、そこで初めて気づくこともありましたし、それぞれ実際話してみると、気をつかわないのが一番なのかなというのはすごく感じました」

倉田広志代表
「第一は自分自身の理解というのも深まったな、と思います。導入し始めたときには、こういう質問はいけないかなとか、面接のときに何に注意しようとか、すごく悩んだんですけれども、当事者の方と接する機会が多くなっていくと、当然なんですけど、みんな一個人で人なので、個性の延長線って考えたら、そんなに構える必要ないんだなというのが現時点での自分の印象ですね」

■「実際カミングアウトされたらどうすれば…」 企業の“環境作り”をサポート

LGBTQ向けの求人サイトを運営する『JobRainbow』。
サイトには、当事者に“フレンドリーな職場環境”を提供している企業、およそ500社が登録されている。

ジョブレインボーの代表は、ゲイであることを公表している星 賢人さん。
この日、職場の差別に悩む当事者たちが相談に訪れた。

タイチさん(職場でゲイを公表)
「(前職では)会話の中で“彼女いるの?”とかっていう言葉をずっと浴びせられてきて、自分が大切に思っている人のことも(女性に)“変換”して伝えなければいけないという、苦しさみたいなものを感じてきたというのがありました」

JobRainbow 星賢人 代表
「例えば、就活生で内定がもらえた会社に、ゲイであるとカミングアウトをしたら、内定を取り消されてしまって、かなり後半の時期に、急いで就活を再開しなければならなくなってしまった方が、駆け込んできたりする」

ジョブレインボーでは、企業が、当事者のための“環境作り”をするサポートも行っている。
この日、星さんは、オフィスの事務用品などを作る『イトーキ』の社員から相談を受けた。

イトーキ人事部 石戸ひかるさん
「もしカミングアウトされたら、実際本当にできるのかな?どういう対応を、自分は実際できるんだろうっていう」

JobRainbow 星賢人 代表
「別にLGBTという人がいるんじゃなくて、LGBTの中にも、100人いれば100通りのコミュニケーションがあるので、そこは皆さんに肩肘張っていただかずに、人として受け入れたいなという気持ちで、コミュニケーションをしてもらうのが、一番大切かなと思っている」

LGBTQへの理解のためには、「次世代を意識すること」が重要だという。

イトーキ人事部 石戸ひかるさん
「職場よりも子供たちとか学校の方が、どんどんそういったことが進んでいて、追いつかないといけないなと」

JobRainbow 星賢人 代表
「これからの新しい世代というのも、こういった教育を当たり前に受けてきてから、入社する方も多分増えてくると思うんですね。そういったときに、やっぱり会社として取り組みを、しっかりできている、コミュニケーションがちゃんとアップデートされている、ということが、その人たちが働いているときに働きがいを感じたりだとか、この会社はやっぱり素敵だな、と思ってもらえるきっかけになるかなと思うので、次世代の視点を考えてくださっているのがすごく嬉しいですね」

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