利用される“歴史” なぜプーチン大統領は「ナチス」発言を繰り返すのか?【風をよむ】サンデーモーニング|TBS NEWS DIG

利用される“歴史” なぜプーチン大統領は「ナチス」発言を繰り返すのか?【風をよむ】サンデーモーニング|TBS NEWS DIG

ウクライナ侵攻が始まって、まもなく1年。ロシアのプーチン政権は、過去の歴史を戦争に利用するような発言を繰り返しています。

■スターリングラード攻防戦から80年

ロシア・プーチン大統領「ナチズムから世界を解放したスターリングラードの戦いを過小評価したり、歪曲したりすることは許されないー」

2月2日、プーチン大統領が訪れたのはロシア南部のボルゴグラード。かつて独裁者スターリンの名を冠し「スターリングラード」と呼ばれました。

第2次世界大戦で、ナチス・ドイツと旧ソ連が戦った独ソ戦の中でも、熾烈を極めた市街戦となった「スターリングラード攻防戦」。

ソ連軍が勝利したことで、ナチス・ドイツが降伏に至る転換点になったといわれる戦いの終結から、ちょうど80年となる記念日でした。

■“ナチス”との戦いを訴えるワケ

前日にはスターリン像の除幕式が行われており、プーチン大統領は、その勝利の歴史を称え、改めて「ナチス」との戦い、祖国防衛を訴えたのです。

ロシア・プーチン大統領「ナチズムのイデオロギーが現代的な形になり、再びロシアの安全を直接脅かしている。我々は繰り返し、西側諸国の集団的侵略に対抗しなければならない」

振り返れば、まもなく1年となるウクライナへの軍事侵攻。それはこの宣言から始まりました。

ロシア・プーチン大統領「キーウ政権によって8年間いじめられ大量虐殺を受けた住民を守るために、ウクライナの非武装化と『非ナチス化』を目指す」2022年2月24日

プーチン大統領は、今回の「特別軍事作戦」の目的の一つに、「ロシア系住民を迫害するナチスからの解放」を掲げ、ウクライナ侵攻を正当化しました。

以来、プーチン大統領は、国内向けの演説などで、「ナチス」という言葉を度々登場させます。なぜプーチン大統領は「ナチス」を強調するのか。小泉悠さんは…

小泉悠さん(東京大学先端科学技術研究センター専任講師)「ロシアの社会にとって、『ナチスとの戦い』は極めて特別の意味を持っている。ですから、プーチン政権が最大公約数的に人々に訴えかけられると考えたのは、『ナチスという人類悪を我々は倒した仲間だ』ということだったんです。要するにロシアの言うことを聞かない奴はナチスだと。転倒した論理が生まれてしまい、戦争の正当性として利用されている」

■強制収容所解放から78年

プーチン大統領が、勝利の歴史を国民に思い起こさせようとする中、1月27日、ポーランドにあるアウシュビッツ強制収容所で解放から78年となる追悼式典が開かれました。

ナチス・ドイツが、ユダヤ人110万人以上を虐殺したアウシュビッツ強制収容所。ここをはじめ各地の収容所を解放したのは旧ソ連軍でした。

しかし今回初めて、この式典にロシアは招かれませんでした。その訳を式典の主催者は…

アウシュビッツ・ビルケナウ博物館・シウィンスキ館長「第二次大戦中に各地で大量殺戮が行われました。そして今、(ウクライナの)ブチャ、マリウポリ、ドネツクなどで、またしても罪のない人々が、大量に命を奪われているのです-」

これに対し、プーチン大統領は主催者などにあてた電報で抗議。「わが国の偉大な勝利への貢献を見直す試みは、ナチス復活の道を開く。ウクライナのネオナチによる民族浄化がまさにその証拠だ」

■欧米にも“ナチス”を利用して非難するプーチン政権

ナチスとの戦争を持ち出して、ウクライナ侵攻を正当化するプーチン政権。対立する欧米に対しても―

ロシア・ラブロフ外相「欧米各国はウクライナを利用して、ロシア問題の最終的解決として戦争を仕掛けている。ヒトラーがユダヤ人に行った
虐殺のように」

また主力戦車「レオパルト2」の供与を行ったドイツに対しても、「ナチスの犯罪を巡る歴史的責任を放棄した」と非難したのです。

ウクライナ情勢の中で、歴史を利用するプーチン政権。その一方で、今や本来の歴史の記憶が薄らぎつつあります。

■広がるホロコーストの風化

アンネの日記で知られるアンネ・フランクの隠れ家があったオランダ。調査によれば、「ナチスが600万人のユダヤ人を虐殺したことを知らない」人が、いまや若者の6割近くに達したといいます。

歴史の風化が進む中、それを利用するプーチン政権に、小泉さんは…

小泉悠さん(東京大学先端科学技術研究センター専任講師)「一言で言うと『歴史の政治化』と言っていいと思う。歴史をどう描くかということは政治そのもの。歴史観の政治化の仕方によっては、『戦争を肯定する』とか、『虐殺なんかなかったんだ』という方向に向かってしまう。だから、痛みを伴うんだけど、きちんと(歴史を)直視する、それができる社会が、本当は強いんだと思うんです」

歴史と向き合う姿勢が、いま改めて問われています。

(サンデーモーニング2023年2月5日放送より)

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