健康の維持や増進を目的とした「予防医療」が注目を集めるなか、近年人気なのが、歩数や消費カロリーなどを測定・記録してくれる「活動量計」だ。その多くが腕時計型の「ウェアラブル端末」と呼ばれるコンピューターで、身につけるだけで日々の活動をチェックしてくれる。
国立長寿医療研究センターの老年学評価研究部長の近藤克則氏は、こう話す。
「日本全国の20万人を対象にした調査では、『人とのつながり』の多い高齢者のほうが、健康である割合が高いとの結果が出ています。ウェアラブル端末も、計測結果を共有することで、楽しく運動ができ、より効果が高まるでしょう」
横浜市では、民間企業と協力して14年度に1億5千万円の予算で40歳以上の市民に歩数計を配布する「よこはまウォーキングポイント事業」を開始。これまでに約16万人が参加した。歩数に応じてポイントが加算され、一定のポイントがたまると抽選で商品券が当たる。歩数の報告は、市内の店舗に設置されたリーダーで読み取る。お店の人との交流を深める仕掛けだ。実際、歩数計を持ったことで「より歩くようになった」という人は9割にのぼる。
企業も巻き込んだこの事業を全国に広げたとすると、必要な税金は約50億円。国も、30万人規模の健康情報を集めたデータベースの構築を検討中だという。「1億総ウェアラブル社会」も夢ではない。
高齢者のコミュニティーづくりも課題だ。近藤氏らの調査では、65歳以上75歳未満の前期高齢者に「1年間に転んだことがありますか」とたずねたところ、地域のスポーツ組織に参加している人ほど転倒が少なく、認知症も少なかった。結果がよかったのが千葉県柏市。柏市はウォーキンググループが多く、散歩に適した環境も整っていました。これからの医療政策は、健康維持のためのコミュニティーづくりを支援することが必要です」(近藤氏)
東京都杉並区では、銭湯を使ったコミュニティーづくりが始まっている。同区では、65歳以上であれば週に1度100円で入湯できる曜日を設けている。同区の保健福祉部は、
「定期的に高齢者が銭湯に集まることで、地域の交流の場になっている」
そのほか、区内の銭湯と協力して、営業時間外の施設を高齢者のサークル活動に貸し出していて、「ヨガや健康マージャンなど、さまざまな活動が広がっています」(同)という。
東京都の場合、入湯料を週1回100円にすると、1年間で必要な予算は約12億円。銭湯で交流し、運動をして、健康情報を交換する。高齢者が健康になって医療費削減につながるなら、それほど高くはないかも。