トランプ大統領が進める関税強化策の影響を大きく受けるのが、アメリカに次ぐGDP世界2位の大国、中国です。5日に開幕した中国の国会にあたる全人代で、習近平指導部はトランプ政権への“強気な対抗策”を示しました。
■景気鈍化も…成長目標「5%」
今年の大方針を決める全人代。冒頭の現況報告から危機感が現れていました。
中国 李強首相
「国際環境はより複雑で厳しくなっていて、我が国の貿易や科学技術の分野により大きな打撃となるでしょう。“一国主義”や“保護主義”が激化し、国際経済の循環を阻害している」
全人代開幕に合わせたかのように中国への追加関税を発動したトランプ大統領。すぐさま中国も対抗措置を発表し、米中貿易戦争はすでに始まった感があります。
中国経済にかつての勢いはなく、国内消費は落ち込み、デフレの懸念が深刻化しています。そこにトランプ関税が立ちはだかるとなれば、危機感が高まるのも仕方ありません。ただ、それでも中国は強気です。
中国 李強首相
「今年の発展目標はGDPの伸び率を5%前後とする」
■AI・ロボット最前線『杭州』
経済成長率5%前後というのは去年と同じ目標値です。この自信はどこから来ているのでしょうか。その答えが凝縮されている場所が浙江省杭州市。“ある種の企業”が集中している街です。
今年、世界を驚かせた中国産の生成AI『DeepSeek』。アメリカの『OpenAI』の10分の1という破格の費用で開発したのは、杭州市の新興ベンチャー企業です。他にも、AIを組み込み自分で考えて姿勢を制御する仕組みを開発したのも、新進気鋭の民間企業『DEEP Robotics』です。
杭州市には、先進分野で世界に影響を与えるほどの技術を持つ新興企業が6社生まれたことから、“杭州の6つの小さなドラゴン”と言われています。
背景にあるのが杭州市独自の政策です。杭州市が種を撒きだしたのは10年前。政府主導のファンドを作って資金確保に苦しむ新興企業を支えたり、企業の損失の30%を市が肩代わりしたりと、かなり太っ腹な政策を行ってきたとされています。
開発された新技術をインフラに積極的に組み込んだりもしてきました。地方政府とはいえ、民間企業をここまで後押しするのは、中国では極めて異例なことです。
■習政権 民間と“共存”へ転換
そして、その波は中央政府にも。大手民間企業トップが集められた座談会。
中国 習近平国家主席
「多くの民間企業が国に報いる志を胸に一心に発展を図り、中国の現代化のため大きな貢献をすることを期待する」
ファーウェイのCEOやBYDの会長など名だたる経営者の顔ぶれのなかに、アリババの創業者、ジャック・マー氏の姿がありました。かつて「時代錯誤の規則が中国の技術革新を窒息死に追い込む」と習近平政権を厳しく批判。中央政府の締め付けにあい、失脚したと言われていました。そんな人物が最前列に座っている光景が、習主席の変化を表していると分析されています。
ANN中国総局長 冨坂範明
「民間企業に厳しい姿勢をとってきた習近平政権にとって大きな方向転換。まずアメリカとの貿易戦争を控え、中国経済がさらに減速する懸念が強まるなかで、元気な民間企業の力を借りたい思惑。民間企業による投資・雇用・消費の拡大を実現したい。さらに、アメリカとの技術競争のなかで民間企業の“イノベーション”に頼りたい思惑。座談会に参加した企業には、アメリカの制裁を受けながらも世界をリードするイノベーションを起こしてきたところもあるから」
5日の全人代でも透けてみえた、民間企業への期待。
中国 李強首相
「最先端の科学技術を推進する開発の計画と実施を急ぐ。企業は国家イノベーション政策の決定に参加することができ、国家の重大な科学プロジェクトを担当してもらう」
経済改革を図りながらトランプ関税と向き合う中国。どうやって乗り越えるつもりなのでしょうか。
■“トランプ関税”に中国は?
中国経済に詳しい、ニッセイ基礎研究所の三浦祐介主任研究員に聞きました。
(Q.今年の経済成長率の目標は去年と同じ「5.0%前後」に設定されました。この成長率目標をどう見ればいいですか)
ニッセイ基礎研究所 三浦祐介主任研究員
「かなりチャレンジングな目標設定。『5%』は去年と同じだが、去年は電気自動車や太陽光パネルなど輸出の拡大があったからこそ達成できた数字。不動産不況も続くなか、トランプ政権との貿易摩擦のさらなる激化も予想され、達成へのハードルは高い」
(Q.トランプ政権の高い関税を利用した圧力に、習政権はどう対応しようとしていますか)
ニッセイ基礎研究所 三浦祐介主任研究員
「それは財政出動による内需の拡大です。電気自動車や家電製品などの買い替え支援による消費拡大や、企業の設備投資の促進、公共事業といったものに対して1.3兆元(約26.6兆円)を投じて内需拡大を進める。これで“現状レベルのトランプ関税”による輸出減少には対応可能」
ただ、“トランプ関税”をめぐる米中の報復合戦は段々とエスカレートし始めています。2月にトランプ政権が課した10%に対し、中国は石炭などに最大15%の報復関税をかけました。さらに今月4日、アメリカが課した追加関税10%、合計20%に対し、中国は小麦などアメリカからの農産物に最大15%の報復関税を発表していて、泥仕合はすでに始まっています。
(Q.今後、どうなるとみていますか)
ニッセイ基礎研究所 三浦祐介主任研究員
「今後も中国は報復関税をかけるだろうが、圧倒的に中国の輸出額が多く、アメリカに対して同じ規模で報復できないし、するつもりもない。トランプ氏は大統領選挙の公約で『60%』関税までも言及していて、仮に実施されると今の対策では不十分。そのため、中国は民間企業の育成に力を入れ、経済の安定を守り、長期的には世界への影響力を強めるべく、ハイテク分野などで産業競争力を高めていこうと考えているのでは」
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