ノーベル賞のパロディーで「人々を笑わせ考えさせた研究」に贈られるイグ・ノーベル賞。18年連続で日本人が受賞していて、2024年は東京科学大学や名古屋大学などの研究チームが「哺乳類がお尻から呼吸できることを発見」で受賞しました。この研究について詳しくお伝えします。
研究グループは、肺から酸素を取り込む能力が低下し、呼吸不全状態に陥っているマウスやブタを対象に、お尻から直腸に酸素を大量に含んだ特殊な液体を注入する実験を行いました。その結果、血液中の酸素量が増えて呼吸不全が改善したんです。ブタの場合は、血中酸素濃度が20%から80%にまで増えた個体もいました。しかも副作用や合併症は現れなかったのです。
なぜ、このような研究を進めようと考えたのか、研究チームの1人である名古屋大学医学部の芳川豊史教授に話を聞きました。
芳川教授はある時、研究室の学生から「ドジョウは普段はえら呼吸だが、酸素が少ない環境では腸から酸素を取り込むことができる」という話を聞きます。興味を持った芳川教授は「哺乳類も同じように腸から酸素を吸収できるのでは?」と思いつき、2017年に研究を開始。調べていくと、哺乳類の直腸は血流が多く、薬を吸収しやすいという特徴がわかり、「ならば酸素を取り込むことも可能かも?」と考えたそうです。
そしてこの「お尻呼吸」は、すでに人への臨床段階にまで進んでいます。
研究チームの東京科学大学の武部貴則教授らは2024年6月、健康な成人男性を対象に、酸素を大量に含んだ特殊な液体を直腸に入れる臨床試験を始めました。まず安全性を確認していて、どうやら問題はないという結果が得られそうといいます。
次は人の体でも、「お尻呼吸」で血中の酸素濃度が高まるのか調べるそうです。人の体内に入れる酸素の量や投与時間などの研究、国の承認など課題はまだまだありますが、研究チームは遅くとも2028年には新しい医療法として実用化を目指しています。
武部教授によると「お尻呼吸」で、完全に肺の機能を肩代わりするのは難しいそうです。ただ一時的または補助的に体内に酸素を供給する手段になるとのこと。例えば肺機能が低下して呼吸不全に陥った患者の症状の緩和や、食べ物がのどに詰まって呼吸ができないときに一時的に命をつなぐ救急的な活用が期待されています。
このお尻呼吸が実用化されれば、「ノーベル賞」も期待できるのではないか。武部教授に聞いたところ、「受賞にこだわりはないが、研究が少しでも多くの人の役に立ったうえで、携わった人たちの頑張りが認められるのであればうれしい」と話していました。
ちなみに研究チームはこの「お尻呼吸」をEVA法(エヴァ法)と名付けました。人気アニメ「エヴァンゲリオン」で主人公らが乗り込むコックピットが呼吸可能な液体で満たされる描写があり、武部教授は影響を受けた部分もあると話していました。
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