5期目をスタートさせたばかりのロシアのプーチン大統領が、16日から中国を訪問します。
ロシアのウクライナ侵攻以降、中国は、関係は強化しつつも、武器や軍事転用が可能な機器の輸出はしないと中立の立場を強調してきました。しかし、現場を取材して見えてきたのは、違う景色でした。
中国・山東省。ロシアと隣接などしていないのですが、最近、目につくのがロシアとの結びつきです。
数カ月前から増えたというロシア語の道路標識。飲食店をのぞくと、多くのロシア人客の姿が。ビジネス目的の人も多いようです。
ロシア人貿易商:「中国とのビジネスは良くなっている。私たちの強力なパートナーは中国となった」
いまや山東省とロシアの間での貿易取引は、5兆円を上回る規模に成長。ウクライナ侵攻を境に倍以上に膨らんでいます。
山東省に住むロシア人:「ここ2~3年で、中国とのプロジェクトが、貿易や文化・芸術分野でも増えている。(Q.明らかに増えていると感じる)もちろん理由は、みんな知ってるでしょ。私が言わなくてもいいでしょう」
世界から孤立するロシアを買い支える中国。
その貿易取引の中には、こんなものも入り込んでいます。
ロシア国防省が公開した戦地の様子。そこに映っていた車。制裁の影響でロシア国内での車の生産が落ち込むなか、兵士や物資の輸送の代替手段として、戦場で目にすることが増えたのが“バギー”。山東省の企業が生産しているものです。
半年前には、プーチン大統領自ら視察したこの車。ロシア軍は、2000両以上、購入したとみられています。
山東省にある製造工場。中国メディアによりますと、今月半ばに新たな生産ラインが稼働し、生産能力が3割アップするそうです。
さらに、戦地で使われている懸念があるのは、これだけではありません。
山東省の企業が製造している取付式の赤外線スコープ。本来は、狩猟などで使われるものですが、ロシアが購入し、ウクライナで使われているとされているものの1つです。
ドネツク州を占領している親ロシア派に送られてきた箱には、スコープの写真と企業のロゴマークが見えます。
今月1日、アメリカは、この山東省の企業に制裁を加えたことを発表しました。
そもそも中国は、表向きは中立の立場をとっていて、1年前に、はっきりこう言っています。
中国・秦剛外相(当時):「中国は、軍事品の輸出には慎重で責任ある立場だ。(ウクライナにもロシアにも)武器の提供はしない。デュアルユース製品(軍事転用可能な民生品)の輸出では、法律などに基づき規制を行う」
それにもかかわらず、中国の民生品がロシアに流れ、ウクライナで使われていたという懸念。私たちは、山東省のAODES社、iRay社の2社に質問状を送りましたが、どちらも期限までに回答はありません。
最近は、ロシアに渡る民生品の中に、兵器製造につながる電子部品などが含まれるケースも増えているとみられ、欧米は警戒感を強めています。
この問題を中国政府はどう受け止めているのでしょうか。
中国外務省・汪文斌報道官:「(Q.ロシアがウクライナ戦争で中国の製品を使用したAODES社のバギー、iRay社のスコープなど、中国は中立と停戦を提唱しているが)ウクライナ問題で、中国の顔に泥を塗ったり、責任転嫁する言論は受け入れられない。軍事品の輸出で、中国は、慎重で責任ある態度をとり、ドローンなど含め、軍事転換可能な民生品を規制してきた。傍観せず、火に油も注がず、和解と協議に努めてきた。中国への責任転嫁と非難は、問題解決にならない」
◆ロシアと親密な関係を続けているように見える中国の狙いは、どこにあるのでしょうか。中国情勢に詳しい神田外語大学の興梠一郎教授に聞きました。
興梠教授は「アメリカに対抗するために“敵の敵”と組むという中国の伝統的な外交戦略。経済的には、ロシア支援によって欧米からの反発を買い、デメリットの方が大きい。それでも“経済的には割に合わないが、政治的には割に合う”」といいます。
習近平氏は、3期目に入り、共産党体制維持のための政策を次々と打ち出しています。
興梠教授は「体制維持のためには、アメリカへの対抗軸を示す必要があると考えていて、ロシアが負けるのは困る」といいます。
16日から、プーチン大統領が訪中します。
興梠教授は「中国は、アメリカの圧力が強まり、ロシアと手を組まざるを得ない状況。“大好きで付き合っている”のではなく、“現状”の利害が一致している関係に過ぎない。一方のロシアは、中国に全面的に支援してほしい。この両国の微妙な温度感の“ズレ”が両首脳の発言等でどう現れるかが注目」と話します。
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