勤務医の労働時間に上限を設ける「医師の働き方改革」がことし4月にスタートして5月1日で1か月です。医療現場では、医師の負担を軽くする試みが進む一方で、私たちが受ける地域医療に影響が出始めています。
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福岡市西区にある白十字病院です。入院や手術が必要な重症患者に24時間体制で対応しています。昨年度は1日平均300人以上の外来患者を受け入れるなど、地域医療の中核を担っています。
■手術
「ドリル準備しておいてくださいね。」
13年目の神﨑由起医師は、脳神経外科の専門医です。
■白十字病院脳神経外科・神﨑由起医師
「(時間外の)ひどい時は200時間は超えていたと思います。あまり疑問を持ったりはなかったです。」
神﨑医師が所属する脳神経外科は脳卒中などで運ばれてくる急患が多く、緊急の手術に対応したあと、カルテの記入や手術後のケア、他の部署との病状の共有など多くの業務に追われます。
帰るのは日付けが変わったあとということも多かったといいます。
過酷な長時間労働を改善するため、ことし4月、医療現場でスタートしたのが「医師の働き方改革」です。
これまで実質的に「青天井」となっていた勤務医の時間外労働の上限は「原則年間960時間」、1か月あたりの平均に換算すると80時間となります。例外として、地域医療が担えなくなるなどの理由でやむをえない場合は「年間1860時間」という特例も設けられました。
白十字病院は、医師の過酷な労働環境を改善する取り組みを進めています。その一つが「タスクシフト」です。
「タスクシフト」とは、医師が担う業務の一部を医師以外の医療スタッフに移すことです。白十字病院では、これまで医師が行っていた採血や手術中の麻酔などを、特別な資格を持った「診療看護師」が行います。
■白十字病院 診療看護師・水迫祐人さん
「ここまではいいよという指示をいただきながら、自分で検査を出したり、輸液や点滴、薬を調整したりをやっています。」
白十字病院では「タスクシフト」の一環として、ことしから急患に対応する救急救命士を新たに採用しました。
さらに、医師と一緒に診療に立ち会い患者のカルテなどを書く「カルテ秘書」を配置したり、ほかの部署との連絡手段としてチャットアプリを導入しました。
白十字病院では医師の業務の効率化を進めた結果、これまで平均40時間にのぼっていた医師の時間外労働は30時間と、平均で10時間ほど減らすことができました。
■神﨑医師
「病院の中でも時間外勤務を制限する取り組みするようになってから、自分の時間もできるようになって、休みもしっかり取れるようになったので体は楽にはなりました。」
神崎医師はこの日、4件の手術を行い、午後6時には病院をあとにしました。
24時間体制で命と向き合う現場で始まった「働き方改革」。そのジレンマの中で、福岡市城南区の「さくら病院」は、苦渋の決断をしました。
■さくら病院・江頭省吾院長
「当院では平日、土曜、日曜、祝日、24時間体制で診ていたのですが、右側に示すように夜の時間帯は診ない。急病の直接来られた患者さんは診ないという形にしました。」
さくら病院ではこれまで、大学病院から派遣された医師が夜間の急患患者に対応していました。しかし、派遣された医師が患者への対応で十分な睡眠がとれないと、勤務時間としてカウントされ、派遣元の大学病院での勤務に影響することになります。
この事態を防ぐため、さくら病院は夜間に直接病院に来る患者の診察を取りやめ、派遣された医師には、救急車で運ばれてきた急患だけ対応してもらうことにしました。
さくら病院は、夜間診療をとりやめる病院が相次ぐことになれば、地域医療全体の“崩壊”につながる恐れもあると不安を強めています。
■江頭院長
「夜中も開いてる病院は、言い換えると地域の基幹病院。高度な医療を担える病院でないと夜勤のドクターを多数勤務させることはできない。急患センターと地域の基幹病院しか開いてないということになると、開いている病院に集中して、そこの病院が機能不全に陥るということも大きな影響だろうと思います。」
厚生労働省が行った調査によりますと、ことし3月時点で、全国の医療機関の6.2%にあたる457施設が、働き方改革に伴って診療体制の縮小を見込んでいます。
これまで“医師の使命感”で支えられてきた医療の現場で「医療の質」と「医師の健康」をどう守るのか。課題は山積みのままです。
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