中国の民主活動家の男性が、東京都内などで男たちから脅迫や暴行を受けたとJNNの取材に証言しました。民主活動グループは、中国の「海外秘密警察」による活動の可能性が高いとみています。世界中に拠点を持つとされる「秘密警察」、その実態とは?
■“中国の秘密警察”日本で活動か 都内で“暴行”証言
夜遅く、コンビニから家に帰る途中のことでした。停車していた車の脇を通りかかると、突然、全く見知らぬ男から流暢な中国語で自分の名前を呼ばれたといいます。
中国の民主活動家 Aさん
「車に乗って少し話せないかと言われましたが、『それはできません、ここで話せませんか』と答えました」
Aさんは中国国内で民主化を求める政治活動を続けてきました。しかし、厳しい弾圧から逃れるため、2年前に来日。東京で金融関係の仕事を始めたところでした。
話しかけてきた男は車から降りてきて、再び乗るよう促しました。Aさんが拒むと、さらに5人の男が出てきました。
中国の民主活動家 Aさん
「(男は)あなたの周りにいる若い留学生が、いくつかのグループを行き来している。この類の人間と接触しないように、と言われました」
“若い留学生”とは、日本で民主活動をしている男性でした。Aさんは、中国当局からの注意喚起と受け止めたといいます。
他の男達は無言で立っていました。その後、後ろの男2人は乗車せず、ナンバープレートを隠すように歩き、その場を去りました。
中国の民主活動家 Aさん
「彼らは秘密警察だと確信しています。手法が非常にプロフェッショナルだったからです」
身の危険を感じたAさんは引っ越しました。しかし、これで終わりませんでした。
その2か月後、新宿歌舞伎町のど真ん中。夜8時頃、仕事帰りのAさんが歩いていると、正面から3人の男が近づいてきて、横道に連れ込まれたといいます。前回とは別の男たちでした。
中国の民主活動家 Aさん
「我々が誰かわかるよね、と言われました。自分たちのために働かないか、会社はやめろ、と言われました。私の報酬額として1600万人民元を保証すると」
提示された日本円で3億円を超える報酬。
――自分たちのために働けという、その意味はどういう意味だと思いましたか
中国の民主活動家 Aさん
「中国共産党の一貫したやり方は、各分野に潜入して党のために人物やビジネス、家族の情報を収集するというものです。友人を裏切る行為です。中国国内では常に行われていることです」
日本でスパイ活動をするよう求められた、と受け取りました。しかし、Aさんは断りました。この拒絶が、更なる脅迫に繋がりました。
2023年2月、帰宅中のAさんは、突然、頭からビニール袋をかぶせられました。
中国の民主活動家 Aさん
「(道路を)渡り終えた瞬間、頭に袋をかぶせられました」
――後ろから来た?
中国の民主活動家 Aさん
「首をつかまれて、こちらに連れてこられて、このあたりで二、三発叩かれ、ここまで連れてこられ、押さえつけられ、叩かれました」
複数の男たちの存在を感じたといいます。
中国の民主活動家 Aさん
「(男は)みだりに口を開くなよ。今回はここまでにするが、もし警察に通報でもしようものなら、これでは終わらないぞ、と」
東北訛りの中国語で言った後、立ち去ったといいます。
■民主活動組織のリーダー“中国の秘密警察の活動”
暴力行為にまで発展した脅迫。この男たちは何者なのか。日本で民主活動を続ける組織のリーダーは、“中国の海外秘密警察の活動”と見ています。
民主中国陣線副主席 王戴 氏
「この場所ですね。これが福建省の省都の福州ですね」
国際人権団体の報告書によると、このビルに「日本における中国秘密警察の拠点」があるとされます。王氏の組織は、ビルの前で抗議活動を続けてきました。
民主中国陣線副主席 王戴 氏
「(秘密警察の)ターゲットは反体制派陣営の人間の取り締まり。海外在住の中国人にいっぱいいるんですけど、“戒め”みたいに。こういったことをやるのは絶対にいいことないよ、と(警告)」
アメリカ在住の天安門事件の元学生リーダーも…
天安門事件 元学生リーダー 周鋒鎖 氏
「(日本にも)中国政府から資金などを得て、政府のために働いている人々がいることは間違いありません。そうした組織について調べる必要があると思います」
世界50か国以上で暗躍するとされる中国の海外秘密警察。背景には何があるのか。中国のゼロコロナ政策に抗議した白紙運動を例に、専門家はこう指摘します。
東京大学(現代中国研究) 阿古智子 教授
「中国の共産党に関するいろんな負の側面というか、そういうものが海外で広がっていて、それが逆流する形で中国にも届いてしまう。そうすると中国の中での不満の声というものがどんどん高まってしまう。そういった活動を広げないために、いろんな対策をとるということなんだと思います」
■“中国の秘密警察” 活動の実態は?
小川彩佳キャスター:
ここからは、取材に当たった萩原豊TBS解説・専門記者室長に加わってもらいます。日本でこのようなことが起きているのか、という生々しい証言でしたね。
萩原豊 TBS解説・専門記者室長
これが中国の秘密警察の活動であるならば、これは重大な問題なんですが、まずは4月にニューヨークで摘発された事件から見ていきます。
チャイナタウンにあるこのビル、1階はラーメン店なんですが、ここに中国の秘密警察署が置かれていた、とされるんです。逮捕された男の1人は、中国の公安部の指示で民主活動家の居場所の特定を手助けして、中国本国からの亡命者を脅迫し、帰国させようとしていた疑いが持たれているんです。
山本恵里伽キャスター:
この中国の秘密警察というのは、どんな活動をしているんですか?
萩原 室長:
国際人権団体によりますと、海外にいる民主活動家や、あるいは少数民族の人々をターゲットにして、監視、嫌がらせ、脅迫をして、圧力をかけ中国に帰国させる活動をしているということなんです。目的は、海外からの中国政府に対する批判を、封じるためというふうにされています。
その数は世界53か国、102か所に上るということなんです。そして先月も、中国の内モンゴル自治区出身の著名な作家が、滞在先のモンゴルで拘束され、中国に連れ戻されていたんです。これも中国の秘密警察による活動の一環だというふうに見られています
小川キャスター:
この秘密警察の日本での活動について、中国はどのような見解なんでしょうか?
萩原 室長:
中国の外務省は私達の質問に対して、このように答えています。
中国外務省 汪文斌 報道官
「強調するが、いわゆる海外警察拠点は全く存在しない。中国は一貫して内政不干渉の原則を堅持している」
萩原 室長:
完全否定なんですけれども、一方で、欧米各国は対応を急いでいます。例えばアメリカは主権に対する明白な侵害だ、というふうに強く非難して、FBIは各国の捜査機関と連携を強めるとしているんですね。イギリスは先週、拠点を閉鎖したと発表しています。
一方、日本はと言いますと、『中国に対して我が国の主権を侵害する活動があれば、断じて認められないと申し入れ実態解明を進めている』としてるんです。今回、大変勇気ある証言をいただきました。これを契機にですね、中国の秘密警察の活動かどうか、実態の解明を急ぐべきですし、日本としては、人権・表現の自由を断固として守るという強いメッセージを打ち出す必要があるというふうに思います。
小川キャスター:
中国との向き合いというのは難しさが伴いますけれども、ここは毅然と対応する必要がありますね。
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