青森県南部町に、自給自足の生活をする“田村さんチ”がある。バンキシャ!ではその暮らしを1年にわたって取材。家屋も食料も自分たちでつくり、トイレットペーパーの代わりにはフキの葉を使う。そんな田村さんチに、ある日、行列が。“地球に優しい生き方”を学ぼうと、多くの人が集まって来たのだ。(真相報道バンキシャ!)
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バンキシャ!はこの1年、青森県南部町で自給自足生活を送るある家族を取材。今年1月、雪が積もった日に訪れると、4歳の泰地(たいち)くんが出迎えてくれた。厳しい寒さの中、何やら黙々と作業をする親子3人。この家族が “田村さんチ”だ。
──(記者)これは何ですか?
田村余一さん(45)
「これは、大豆ですね」
田村ゆにさん(35)
「豆は保存がきくので」
家の畑で採れた大豆のサヤから、親子3人で豆を取り出していく。黙々とした作業が続くなか、たいちくんが声を上げた。
たいちくん
「クズ豆!」
余一さん
「よく見つけたね」
──クズ豆って何?
たいちくん
「ダメな豆! 虫食いや、穴が開いたり、ちっちゃすぎるのもダメ」
毎年冬になると、自家製のみそを10キロ分つくる。妻のゆにさんが、保存してあるみそのカメを見せてくれた。
ゆにさん
「こっちが去年のみそ。全部自前なんです」
みそに使う米麹(こめこうじ)や、塩、納豆なども、すべて手づくりだ。
「いただきます!」
親子3人で食卓を囲む。鍋のフタをとると温かそうな湯気が立ち上る。自分たちが食べる分は、自分たちでつくる。そんなシンプルな生活をする理由を夫の余一さんに聞いてみた。
余一さん
「子どものためを考えていくと、やっぱり未来のためになってくるので。環境にも自分自身にも負荷がかからない生活ってできないものかと考えた時に、やっぱり自分で自分のものを作って、必要な分だけそれを消費する。それがたぶん一番いいことだろうなと思ってたので」
そんな田村さんチの暮らしぶりを見せてもらった。洗濯機などに使う電気は太陽光発電を利用。生活用水は、敷地内で見つけた水源から湧き水をろ過して使っている。しかしこの水は飲めないため、飲料水は、月に1回、近くの山へ。大きめのペットボトルやポリタンクをたくさん車に積んで、山から湧き出る水を100リットルくんでくる。
そして……。
余一さん
「これが我が家のトイレになっています」
そう言って木の板でつくった小屋の扉を開けると、そこには、大きな缶の上に木材で作った便座が設置してある。なんと、トイレも手づくりなのだ。さらに……。
「ふきの葉を持ってきたよ!」
そう言って、たいちくんが走ってきた。
余一さん
「おお!『おしり拭き』を持ってきた! よく持ってきたね」
トイレットペーパーは使わず、代わりにふきの葉を使う。排せつ物は、庭の隅に枯れ枝や枯れ草などを集めて作った場所にためて分解、そのまま畑の堆肥となる。
余一さん
「その土から出る植物を鶏も食べるし、ウチらも野菜とかを食べて、循環させる」
◇
バンキシャは、こんな田村さんチに1年間密着してきた。
──電気、ガス、水道は?
余一さん
「契約はしていないですね」
──生活費はどれくらい必要?
ゆにさん
「(月に)たぶん4万円くらい」
電気・ガス・水道を契約せず、太陽光発電や薪(まき)を使って生活をしている。家も廃材を再利用した手づくりハウスだ。現金収入は、近所の“御用聞き”をして得ている。無駄なゴミを出さず、自然とともに過ごす。“地球に優しい生き方”を実践している。
余一さん
「自分たちのことはあんまり考えていない。たいちの生きる時代を考えて、こうしておいた方が良いんじゃないかっていうのを、やっているんですけど」
ただし、自給自足といっても決して無理はしない。目指すのはあくまで家族の幸せだ。たいちくんが算数に興味を持ち始めた時には、スマホを使っていっしょに勉強した。
「3より4大きい数だって」
たいちくんが持つスマホをのぞき込んで、ゆにさんが言う。
たいちくん
「7だよ!」
ゆにさん
「すごいじゃん、たいち」
必要であれば、スマホやパソコンも積極的に利用するのが田村さんチの方針だ。
◇
そして、去年の10月。田村さんチに、大勢の人がやってきた。見学したいという人が後を絶たないため、余一さんがイベントを開いたのだ。
余一さん
「これからウチをゆっくり、ガイドしながら回っていきます」
インターネットで応募してきた人と回る、参加費ありの体験ツアーだ。
余一さん
「我が家の明かりとしては、ほとんどこれで夜は賄っています」
みんなで天井を見上げると、そこには電球が数個設置されている。
余一さん
「ポータブル電源1個と、ソーラーパネルと、それをつなぐケーブルがあれば、もう、すぐできます」
参加者
「へえ…」
参加者から驚きの声があがる。そして一同は次に、ソーラーパネルを見に庭へ出た。そこには1メートル四方くらいのソーラーパネルがいくつか置いてあった。
参加者
「強風で飛んだりしないですか?」
みんな、真剣そのものだ。参加者は20歳の大学生から60代の夫婦まで。若い女性の姿も目立つ。普通の生活をしている人たちばかりだ。余一さんが、大きめの缶のなかで火をたき、その上に土鍋を設置してお米を炊く。
余一さん
「1升が10分で炊けるんです」
参加者が驚きの声をあげる。
余一さん
「一気に沸騰までもっていくので。こうなってくると逆転現象が起きて、家電製品の早炊きボタンより早く炊ける。こっちの原始の科学の方が勝つ場合がある。そういうのが面白い」
昼食は、田村さんチの畑でとれたカボチャのスープだ。
たいちくん
「いただきます」
その口調のかわいらしさに思わず笑いながら、参加者一同も「いただきます」と返した。彼らは一体なぜこのイベントに参加したのだろうか。農業にチャレンジしている24歳の男性は、次のように話してくれた。
参加者
「もともと昔の暮らしに興味があって、環境問題とかを考えていた。そのままそっくりは今はできないので、今風にうまくバランスをとって、やっていきたい」
家族4人で参加した42歳の父親は、自然災害に備えておきたいのだという。
参加者
「ここから得られるヒントはいっぱいあるので、自分たちの生活に置き換えて、できることを……」
──やってみるかもしれない?
参加者
「やりますね、多分。すぐに帰って、来週あたりにはカンカンカンって、たぶん」
そう言って男性は笑った。参加者は皆、田村さんチの暮らしから生きるヒントを得ているようだった。
遠く向こうの稜線(りょうせん)に夕日が沈んでいく。田村さんチには今日もゆったりとした時間が流れている。
(2023年6月4日放送「真相報道バンキシャ! 」より)
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