新垣修×宮台真司×神保哲生:真にグローバルな課題の解決に向けた議論ができないG7なんて要らない【ダイジェスト】

新垣修×宮台真司×神保哲生:真にグローバルな課題の解決に向けた議論ができないG7なんて要らない【ダイジェスト】

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マル激トーク・オン・ディマンド 第1154回(2023年5月20日)
ゲスト:新垣修氏(国際基督教大学教養学部教授)
司会:神保哲生 宮台真司

 世界の先進7か国にEUを加えた国々のリーダーが一堂に会するG7サミットが広島で始まった。首脳会議は5月19日から21日の3日間行われるが、それと前後して外務大臣会合や環境大臣会合など15の閣僚会合が開かれる。

 今回、ウクライナのゼレンスキー大統領がゲスト参加することがサミット直前に発表されたこともあり、サミットの議題はウクライナ問題一色になる可能性が高くなっているが、そもそもサミットのために事前に設定されていたテーマが、ウクライナ問題や対中包囲網など軍事や安全保障が中心で、そのほかはAIだのジェンダーといった先進国の首脳が雁首を揃えて議論するような緊急性や重要性が高いとは思えないものが多い。残念ながらG7サミットは世界の主導的な立場にある先進諸国がグローバルな問題の解決方法を討議する場というよりも、NATOと日米同盟を合わせた「アメリカ陣営」の合同会合になってしまっている。

 もちろん安全保障問題は重要だ。またウクライナ支援も西側諸国が足並みを揃えることに大きな意味があるだろう。しかし、今世界が直面する問題はそれだけではない。世界は今、気候変動による環境災害や次なるパンデミックに向けた体制整備、貧困と格差、難民や国内避難民の急増など数々の深刻な問題に直面している。そしてその多くで先進国は加害者としての立場にあり、その解決に対する責任を負っている。

 かつてフランスのジスカール・デスタン大統領の提唱で1975年にパリのランブイエでG7の前身となるG6サミットが開催された時、現在のG7メンバーのGDPの総額は世界の7割近くあった。G7は文字通り世界でもっとも発展している先進国の集まりであり、G7諸国には世界規模の問題を討議し解決に向けて努力していく責任感も気概も共有されていた。

 しかし、その後、G7の相対的な力は低下し、今やG7諸国のGDPを合わせても世界の4割程度にしかならない。力の低下にともない、世界規模な諸問題に対する責任意識も低下していると言わざるを得ない。しかし、とはいえ依然としてG7が世界でもっとも裕福な国々であることに疑いの余地はない。世界で最も発展している7カ国が裕福な先進国クラブのように集まって、自分たちだけが直接影響を受けている問題を話し合うだけでいいのか。グローバルな危機的状況についての議論が避けられているのではないか。マル激では、今世界が直面している地球規模の課題、とくに感染症と難民と気候変動をめぐる問題について議論した。

 世界はこの3年間、新型コロナのパンデミックで大変な被害を受けた。WHOによると、2023年5月17日までに世界で7億6,000万人を超えるコロナ感染者が発生し、693万人を超える死者がWHOに報告されている。さらにWHOは、多くの国がコロナによる死者数を過小集計しており、実際の死者数はその3倍にあたる2,000万人に及ぶ可能性が高いとしている。

 今回のパンデミックでは、経済力を持つ先進諸国がワクチンを独占して途上国に回らないという格差が顕在化した。5月13日、14日に行われた長崎市でのG7保健相会合では、世界各国にワクチンや治療薬が公平に行き渡る取り組みを促進することを閣僚宣言に盛り込んだものの、国際法が専門で、感染症と難民問題に詳しい国際基督教大学の新垣修教授は、実際にどのようにしてワクチンを分配するのか、その具体的な方法が全く議論されていないと指摘する。例えば輸送や貯蔵も含めて最後に使われるまで低温を保つコールドチェーンが整備されなければ、アフリカにせっかくワクチンを持って行っても使えなくなってしまう。G7がこのような表層的な議論しかできない状態で、世界は次なるパンデミックに襲われたとき、人類は過去3年間のたうちまわったコロナの教訓を活かせるのか。

 また、今世界が直面するもう一つの喫緊の課題は年間1億人を越える難民や国内避難民問題にどう手当てするか。新垣氏は、難民1億人の半数以上にあたる5,000万人以上が国外に逃げる術を持たない「国内避難民」であることを指摘した上で、国外に逃れる資金や手段がある難民はまだましで、どこにも逃げることもできない国内避難民の問題はあまり表に出てこないものの非常に深刻な状態にあると語る。しかも、5,000万人の国内避難民の半分以上は、竜巻や大雨、洪水などの気候変動に起因する災害から逃れてきた避難民だという。

 地球温暖化については中国やインドなど人口の多い新興工業国のCO2排出量が多いことが指摘されるが、現在の温暖化を引き起こしているCO2の累積排出量はその約半分がG7諸国によるものだ。G7が果たすべき責任は重いはずだが、今回のG7で地球温暖化や気候変動が主要議題に入っていないのはどうしたことだろう。

 その一方で、日本の難民認定数が世界でも類を見ないほど極めて少ない。2022年には、3,772人の難民申請に対して条約難民として認定したのはたった202人だった。日本では難民認定されなかった人の強制送還を容易にする入管法の改正案が今まさに国会で審議されているが、そもそも難民認定の基準は日本も批准している条約によって規定されている。日本の難民認定率がイギリスやカナダの100分の1にとどまるようなことは本来であれば起こり得ないことだ。新垣氏は日本の難民認定の低さこそが、難民の認定を各国の主体的判断に委ねている現在の世界の難民制度の脆弱性を体現していると指摘する。

 このG7サミットでなぜ真に世界が直面する重要問題が議題に上っていないのか。感染症、難民、気候変動など、われわれが直面している地球規模の課題は今どうなっていて、日本は今どんな立ち位置にいるのか。もしもグローバルリーダーを自認するのであれば、われわれが果たすべき責任は何かなどについて、国際基督教大学教授の新垣修氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

【プロフィール】
新垣 修 (あらかき おさむ)
国際基督教大学教養学部教授
1964年沖縄県生まれ。91年明治学院大学法学部卒業。95年トロント大学(カナダ)修士課程修了(政治学)。2003年ヴィクトリア大学(ニュージーランド)Ph.D.取得。専門は国際法、国際関係論。1991~94年国連難民高等弁務官(UNHCR)事務所法務官補、96~2001年国際協力機構(JICA)ジュニア専門員、04~05年ハーバード大学ロースクール客員研究員、07年東京大学客員准教授、12~13年広島市立大学教授などを経て13年より現職。著書に『時を漂う感染症』、『フリチョフ・ナンセン』、共著に『「難民」をどう捉えるか』など。

宮台 真司 (みやだい しんじ)
東京都立大学教授/社会学者
1959年宮城県生まれ。東京大学大学院博士課程修了。社会学博士。東京都立大学助教授、首都大学東京准教授を経て現職。専門は社会システム論。(博士論文は『権力の予期理論』。)著書に『日本の難点』、『14歳からの社会学』、『正義から享楽へ-映画は近代の幻を暴く-』、『私たちはどこから来て、どこへ行くのか』、共著に『民主主義が一度もなかった国・日本』など。

神保 哲生 (じんぼう てつお)
ジャーナリスト/ビデオニュース・ドットコム代表 ・編集主幹
1961年東京都生まれ。87年コロンビア大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。クリスチャン・サイエンス・モニター、AP通信など米国報道機関の記者を経て99年ニュース専門インターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』を開局し代表に就任。著書に『地雷リポート』、『ツバル 地球温暖化に沈む国』、『PC遠隔操作事件』、訳書に『食の終焉』、『DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機』など。

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