■「ロシア国防省に脅された」プリゴジン氏が指導部を非難
東部バフムトに参戦するロシアの民間軍事会社「ワグネル」創始者プリゴジン氏は、政権に対する公然批判を繰り返し、国防幹部との間で軋轢が生じている。プリゴジン氏は5日、「弾薬不足のため戦闘員が無駄死にしているとして、ショイグ国防相らを強く非難。「ショイグ!、ゲラシモフ!弾薬はどこだ」と呼び捨てにするなど声を荒げ、10日にバフムトから部隊を撤退すると宣言した。7日には、戦闘継続に必要とされる弾薬の提供にロシア当局が同意したことを理由に、5日に表明した撤退方針を撤回。9日には、プリゴジン氏は「供給された弾薬は、要求量の10%に留まる」と不満を述べた。また、プリゴジン氏は「前線から撤退した場合、国家反逆罪となるとロシア国防省から脅された」と主張した。プリゴジン氏はバフムトに留まり、数日は弾薬の供給を要求し続けると語った。さらに、ショイグ国防相に向けた11日付の手紙を公開し、「ロシア軍事部隊の支配するバフムトに、自ら出向き状況を確認するよう求める」と呼びかけた。
■不遇な少年時代を経て“プーチンのシェフ”プリゴジン氏の軌跡
傭兵を集めたロシアの民間軍事会社「ワグネル」は2014年に創設された。侵攻開始以降、ウクライナに約5万人を戦闘に参加させるが、そのうち4万人が受刑者とされる。「プリコジン氏が放つ過激発言の根源には、反骨心と敵愾心がある」と大和大学教授で元産経新聞モスクワ支局長の佐々木正明氏は解説する。佐々木氏によると、プリゴジン氏は、当時の所得が低いとされる看護師だった母親だけで育てられ、貧困な環境で少年時代を送った。その不遇からか粗暴犯として刑務所に収容されることもあった。プリゴジン氏は90年代にホットドックの屋台チェーンを立ち上げ、その勢いで、高級レストランの経営に成功。プーチン大統領が出席する会食会場の選定を通じて関係を築くことになり、“プーチンのシェフ”と呼ばれる実業家への軌跡を辿った。
■プリゴジン氏が“過激発言”権力層を公然批判
プリゴジン氏はSNS投稿の中で、「国民は、すでに自分たちが世界最強の軍隊でないことを、責めるべき相手を探している」と語り、「ディープ・ステート」という言葉を使って、ロシアの権力層を批判した。プリゴジン氏が言うところの「ディープ・ステート」は、「軍事作戦の舞台からできるだけ離れ、資本を失わないように生活を送ろうとしている人々であり、戦争に疲れ、勝利の味を失った国民にとって絶対に容認できない」としている。SNS上での過激な挑発とも捉えられる暴走は止まらない。9日の戦勝記念日に水を差すかのように、プリゴジン氏はSNSで「幸せなおじいさんは、自分が幸せだと思っている。このおじいさんが完全なアホであることが突然、偶然に判明した場合、どうやって戦争に勝てるのか」と投稿を放った。プリコジン氏は発言をすぐに撤回した。米戦争研究所は同日、この発言の「幸せなおじいさん」はプーチン大統領を指すと分析、プリゴジン氏による批判がプーチン大統領にまで及んだことで、ロシア国内に波紋が広がった。
■プリゴジン氏が接近「公正ロシア」国内混乱の可能性
プリゴジン氏を巡っては、ロシア下院で27議席を有する第3の政党「公正ロシア」との接近が注目を集めていると、大和大学教授で元産経新聞モスクワ支局長の佐々木氏が指摘する。ロシア国内に混乱が生じる可能性があると危惧する。セルゲイ・ミロノフ党首が率いる「公正ロシア」は、ロシアによるウクライナ侵攻を支持する立場を鮮明にしている。今年1月、ミロノフ党首が下院で、激戦地バフムトへの攻撃で、「ワグネル」が近郊のソレダルを掌握したことを評価し、「ワグネル合法化」を訴えていた背景もあり、プリゴジン氏との関係が近いと見られていた。
★ゲスト:佐々木正明(大和大学教授/元産経新聞モスクワ支局長)、小泉悠(東大先端研)
★アンカー:杉田弘毅(共同通信社特別編集委員)
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