「官民一体の支援を」日本エンタメ飛躍のカギは…映画『スラムダンク』に中国熱狂(2023年4月20日)

「官民一体の支援を」日本エンタメ飛躍のカギは…映画『スラムダンク』に中国熱狂(2023年4月20日)

中国では20日から、日本の人気アニメ映画『THE FIRST SLAM DUNK』の上映が始まりました。前売り券だけで22億円超えという数字は、中国の劇場版海外アニメ史における新記録です。

上映解禁は午前0時。“我先に”というファンが押し寄せました。

ファン:「(Q.頭の飾りは)桜木花道のセリフです。(Q.何と書いてある)『天才ですから』」

20日だけで上映回数は13万回以上。これは、中国で上映されている映画全体の8割を占めるという、異次元の盛り上がりです。

原作者の井上雄彦さんはツイッターに、こんな投稿をしました。

井上雄彦さん:「中国の友達、元気?『映画スラムダンク』が本日中国で公開され、とてもうれしいです!クリエーターにとって、新作を制作することは挑戦であり喜びでもあります。この『初めてのスラムダンク』を皆様に楽しんでいただければ幸いです」

爆発的人気の理由。1つは、スラムダンクが中国で築き上げた歴史にあります。中国にスラムダンクが入ってきたのは1990年代。コミックの輸入よりも先に、テレビ放映が始まりました。中国語でのタイトルは「ダンクの達人」です。

90年代といえば、マイケル・ジョーダン率いるシカゴ・ブルズの黄金時代で、中国国営メディアがNBAの放送を始めた時期でもあります。一躍沸き起こったバスケブームの効果もあり、スラムダンクは中国で“誰もが知るアニメ”と言っていいほどの社会現象を引き起こしました。

こうした下地があっての、今回の劇場版公開です。テレビの放送終了から20年余り、当時、描かれなかった「王者・山王」との戦いが時を超えてスクリーンに。中国のファンにとっても、これはたまりません。

ファン:「スラムダンクは25回見ました。(Q.25回!?)イエス。(Q.きょう公開では)(先に上映していた)韓国・香港・マカオで全部で25回です」「インターハイ編を20年以上待っていました。大好きです。安西先生の言葉のように『ここで諦めたら試合終了』どんな時代の人も励まされているはずです」

中国のIT企業『転転』は、CEOがスラムダンクの上映券を5000枚購入し、社員たちにプレゼントしたといいます。熱狂的ファンである40代CEOの発案で、400万円かかったといいます。

これほどの盛り上がりとなれば「この熱を取り込みたい」となるのが常です。日本のアニメに魅せられた中国のファンは、聖地巡礼のために来日する人が少なくありません。中国の旅行会社がさっそく、聖地巡礼ツアー企画をネットで公開したところ、想像以上の反響が寄せられたといいます。

旅行会社・携程集団:「きょう公開したばかりなのに、すでにユーザー数百人がサイト上で意見交換をしています。スラムダンクの“聖地”鎌倉に関係するページも、延べ5万人以上が閲覧しています」

すでに、ファン獲得に動き出しているアニメ映画もあります。東日本大震災を経験した女子高生・すずめが、災いの元となる扉を探して、旅をする映画『すずめの戸締まり』。中国での試写会には、新海誠監督が登壇しました。

新海誠監督:「こんにちは新海誠です。日本でもコロナ禍、パンデミック時に作っていた映画です。こんなに早く中国に来られて、皆さんに会えて本当に幸せ」

中国の人たちにとって、新型コロナがおさまってから初めて、海外の監督が参加した試写会。中国の“コロナ明け”というチャンスを逃しませんでした。新海監督が、中国のために書き下ろしのポスターを出すほどの熱の入れよう。公開から1カ月も経たずに日本を超える興行収入となり、日本アニメ映画での歴代1位に躍り出ました。

中国の“すずめ効果”は、早くも日本のインバウンドに恩恵をもたらしています。大分県の豊後森機関庫。旧国鉄の蒸気機関車格納庫で、現在は、国の有形文化財に指定されています。主人公のすずめが初めて『災いの扉』を閉じるシーンに似ていると話題になり、訪れるファンが増えたといいます。地元も期待を寄せています。

玖珠町観光協会・藤原沙羅さん:「映画の影響で、お客様が今までより増えた印象はあります。中国や韓国の方が多い印象。(SNSなどで)発信されている方を見て、すごくうれしく思いますし“すずめ”を通して、たくさんの人に遊びに来てもらえたら」

【アニメ“架け橋”越える存在に】

上海の上映会場にいる、高橋大作記者に聞きます。

(Q.爆発的にヒットした理由は何だと思いますか)

高橋大作記者:「私は今、上海中心部の映画館にいますが、熱気に包まれています。40分ほど前に上映が終わり、余韻を楽しんでいる方や、今から映画を観に来る人もたくさん来ています。この映画館にはシアターが6つありますが、すべてスラムダンクをやっていて、なかにはシアターを貸し切ってパーティーをする人もいます。去年の今頃、上海はロックダウンしていたので「こんな日が来るとは」と皆さんが声を上げて驚いている状況です。そして、中国映画史上の記録に残る出来事がすでに起きています。20日の中国全体の興行収入が約20億円を超えていて、そのうちの約86%がスラムダンクで、すでに18億円を超えています。19日の午後11時59分から公開した映画館もあったので、20億円をすでに超えました」

(Q.日本のアニメコンテンツが日本と中国をつなぐ役割を果たしていますか)

高橋大作記者:「“日中の架け橋”という言葉でくくれないほど、偉大な力を持っていると感じます。なかでも、スラムダンクは別格です。今の30~40代は、子どもの頃、学校が終わると走って帰ってアニメを見ていたということで、日本のアニメに対する憧れや好意を持っている人が多いです。私自身も、アニメに助けられた経験が何回もあります。政府関係者を取材すると、初対面の時にあえて緊張感のある話題を振られることもありますが、日本アニメの話題で打ち解けたことが何度もあります。日本ブランドを守る“ディフェンス”であり、日本をさらに好きになってもらう“オフェンス”のような存在になっていると感じます」

【アニメの飛躍に必要なモノは?】

経団連は、アニメ・音楽・漫画など、エンターテインメント分野の市場規模を現在の4.5兆円から、今後10年で15~20兆円に拡大する目標を掲げています。市場規模を拡大するためにはどうすればいいのか。エンタメコンテンツの海外展開に詳しい社会学者・中山淳雄さんに聞きました。

中山淳雄さん:「日本の作品は質が高く、海外ニーズも高いが、日本は“現地でのビジネス”が苦手」

日本は、海外の配信サイトへ作品を販売した時点で終了してしまうことが多く、現地で人気が出た後のグッズ販売やゲーム化、大規模イベントの開催といった、さらに収益を上げるステップができていないという現状があるといいます。

こうした“現地向けビジネス”ができる人材、そしてクリエーター育成のための支援が必要で、そのためには、官民一体で支援する仕組みがポイントとなってくるということです。

韓国では、音楽やドラマ作品で成功しています。中山さんによりますと、韓国では『コンテンツ振興院』という政府系組織が一元化してエンタメ育成を支援しています。具体的には、ロサンゼルス・東京・パリなど、海外8拠点にビジネスセンターを設置し、現地事業者とのマッチングや宣伝、海外留学・製作費の支援など幅広くフォローしているということです。
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp

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