和歌山の漁港で岸田総理に爆発物を投げ付けた、木村隆二容疑者(24)が犯行当日に身に着けていたリュックの中身が判明しました。
何らかの液体の入った水筒。粉末が入った小瓶。約30センチ四方で、厚さ2ミリほどの金属製の板。ライターとスプーンも入っていました。ライターは、リュックにあったものとは別に、もう1つ所持していたということです。
捜査関係者によりますと、この漁港で総理や閣僚といった要人の警護をした実績は、今のところ確認されていません。
犯行の動機は分かっていませんが、現行の選挙制度に不満を抱えていたとみられ、国を提訴していました。
裁判記録などによりますと、木村容疑者は当時23歳。公職選挙法で定められた30歳以上の被選挙権を満たさず、供託金の300万円も用意できなかったため、参院選に立候補できませんでした。こうした状況を憲法違反だとして、国に10万円の損害賠償を求めました。
国賠訴訟『準備書面』から:「満23歳の原告が、満30歳と同じ『大人』であるにもかかわらず、社会的経験に基づく思慮が十分でないとするのは差別である。被選挙権年齢を成年年齢以上に設定していることに、何ら理由がないことは明白である」
こうした書面を木村容疑者は自分で用意したのかもしれません。というのも、裁判は、代理人弁護士をつけない『本人訴訟』で行われていました。本人訴訟とは、どういったケースで行うものなのでしょうか。
永沢徹弁護士:「この種の国家賠償の訴訟、行政訴訟というのは、自分の思いの丈を国家にぶつけたい、政治信条を貫く手段として、訴訟を使うことが比較的多い」
民事裁判での本人訴訟は珍しくありません。簡易裁判所の場合、7割以上が当事者双方、本人訴訟です。ただ、専門的な書類を個人で作成することは簡単ではありません。木村容疑者の文面について、弁護士はこう話します。
永沢徹弁護士:「最高裁判例の要約をしたものが、自分の論拠に使われているのは、法律家がよく使うやり方ですので、そういった意味では、なかなかこなれた文章だなと思います」
ですが、ほころびも…。
永沢徹弁護士:「一方で、岸田総理の国葬の判断について述べている点は、これは選挙権が害された主張とは直接結びつかない。他の部分は、憲法違反を根拠を持って理路整然と主張しているわけですが、この部分だけは若干、違和感があると感じます」
裁判の記録によりますと、木村容疑者は、具体的な政治家の名前を挙げて、自らの主張を展開しています。
国賠訴訟『準備書面』から:「故安倍晋三の様な既存政治家が、政治家であり続けられたのは、旧統一教会の様なカルト団体、組織票をもつ団体と癒着していたからである。普通選挙を行っていれば、有権者にとって適当な候補者が立候補できるから、投票率は上がり、組織票の割合は下がり、特定団体と癒着した候補者は少なくなり、議会制民主主義は保たれるのである」
そして、岸田総理の名前も…。
国賠訴訟『準備書面』から:「岸田内閣は、故安倍晋三の国葬を世論の反対多数の中で、議会での審理を経ずに閣議決定のみで強行した。このような民主主義への挑戦は、許されるべきものではない。政治家が国民のために存在しないに至ったのは、制限選挙を続けてきたからであり、既存政治家がそれによって当選する仕組みを作り上げたからである」
神戸地裁は去年11月、被選挙権の年齢の規定や供託金の額は「合理的な理由があり、憲法違反にあたらない」として請求を棄却しました。木村容疑者は、この判決を不服として大阪高裁に控訴。来月下旬、判決が出る予定でした。
裁判を時系列で追うと、訴状を作成した日付の約3週間後、安倍元総理の銃撃事件が起きました。そして、裁判のさなか、木村容疑者は地元・川西市議の市政報告会に参加していたとみられます。その場には、大串デジタル副大臣がいて、木村容疑者とみられる男から話しかけられていました。
大串デジタル副大臣:「市会議員になることに関心があるような話でしたね。被選挙権を法改正してほしいというような。誰でも選挙に出られるようにするのが、本来の憲法の趣旨じゃないかと」
その一方で、政策についての話は一切なかったといいます。国に損害賠償を求める訴えに加え、副大臣への直訴。被選挙権の年齢引き下げに強いこだわりを持って、一刻も早く議員になりたがっていた理由は、見えていません。
容疑者の裁判について書き込まれているTwitterのアカウントがあります。開設されたのは、木村容疑者が提訴した、去年6月。訴状の画像とともに「参院選に立候補出来なかったとして、20代前半の原告が国を提訴しました」とコメントしています。
裁判日程などの情報も木村容疑者の裁判と一致していて、警察も存在を把握しています。なかには、岸田総理を批判するツイートも…。
容疑者の裁判について書き込まれているTwitter:「岸田首相も世襲3世ですが、民意を無視する人が政治家には通常なれません。世襲がはびこる原因は、立候補するだけで300万円もの供託金を要求する違憲な公選法があるからです。庶民は立候補出来ず、民主主義は崩壊します」
木村容疑者の弁護士:「(Q.どんな話を)答えられない。(Q.どんな様子。ぐったりしていたとか、疲れていたとか)(Q.認めたり否認とかは)中身については、お答えは控えさせてもらう。(Q.普通の雑談には応じる)ごめんなさい。事務所に戻ります」
捜査関係者によりますと、木村容疑者は黙秘を続けているといいます。17日に病院に行ったとの情報については、取り調べに支障が出るものではないとしています。
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