「在宅訪問管理栄養士」という資格をご存じでしょうか?高齢者や病気を持つ人の自宅に訪問して栄養指導を行う管理栄養士のことで、宮城県内には18人しかいません。「おいしい食事で暮らしの質を上げたい」と宮城県内を飛び回る、在宅訪問管理栄養士に密着しました。
「こんにちは。おじゃまします」
塩野崎淳子さん(44歳)。高齢者や病気を抱える人の自宅に定期的に訪問し、病状や生活環境にあった栄養指導を行う「在宅訪問管理栄養士」です。
在宅訪問管理栄養士 塩野崎淳子さん
「きょうは豚大根を作ります。最後に重曹を煮汁に入れて柔らかくします」
在宅訪問管理栄養士は在宅療養者の増加に対応するため、2011年度から日本栄養士会が認定を始めた資格。宮城県内で資格を持つ管理栄養士はわずか18人しかいません。この日は85歳の男性の自宅で家族に簡単なレシピを提案していました。
在宅訪問管理栄養士 塩野崎淳子さん
「嚥下(えんげ)食を作るときはこのぐらい分厚く、皮を思い切って。じゃないと口の中に残っちゃう」
在宅訪問管理栄養士 塩野崎淳子さん
「今から準備しますので。お昼。おなかすきましたよね?」
男性
「うん」
脳出血とその後遺症により入退院を繰り返していた男性。去年5月に再入院すると、食事を飲み込むことができなくなり、20日間で10キロ痩せてしまったといいます。
男性(85)の長女
「訪問の栄養士さんがいると聞いて、なんとか来てもらえないだろうかと思って、わらにもすがる思いで相談しました」
おいしいものを食べることが好きだったという男性。懸命なリハビリと塩野崎さんの栄養指導によって寝たきりの状態から歩けるほどにまで回復しました。
Q.お味はどうですか?
男性(85)
「まあまあだな」
男性(85)の長女
「『食べれなくなったら死んだ方がいい』とよく言っていた。『おいしかった』と言われるのがとてもうれしいです」
在宅訪問管理栄養士 塩野崎淳子さん
「『栄養士が家に行って何するの』みたいな想像がつかない人が多い。できないことを言われるんじゃないかとか、そう思いますよね」
管理栄養士としてかつて病院に勤務していた塩野崎さん。患者が退院した後の栄養管理が心配になり、ケアマネジャーに転職。暮らしの質を上げる栄養指導の必要性を感じました。
在宅訪問管理栄養士 塩野崎淳子さん
「『食べやすい料理のレシピ、なにか教えてください』と言われて簡単なレシピをお渡ししたら、『すごくおいしかったです。久しぶりにむせずにおいしく食べられました』と言われて。こんなレシピでもこんなに喜んでもらえるんだって、他にも困っている方がたくさん地域にいるかもしれないと思って」
自宅で訪問看護や栄養指導など、療養管理指導を受ける人の数は年々増えています。食事を通じて生活の質を上げる在宅訪問管理栄養士が果たす役割も大きくなっています。
塩野崎さんが次に訪れたのは肺高血圧症などを患う氏家詢くん(6歳)。家族は吐き戻しが多いことに悩んでいました。指導するのは焼き鳥のミキサー食です。
氏家詢くんの母 華奈恵さん
「けっこうな水分入るんですね」
在宅訪問管理栄養士 塩野崎淳子さん
「もっとしっかり沸騰させたいので中まで、端の方は固まり始めてるけど…沸騰しないと、ゲル化剤が反応しない」
専用のとろみ剤を使うなど、特殊な手順が必要なミキサー食。母親の華奈恵さんは、おいしく安全に作ることに難しさを感じています。
氏家詢くんの母 華奈恵さん
「いろいろ食べさせてあげたいと思うけど結局、ひと工夫がないと食べさせられないから、例えば病院の栄養士だったら、お話だけして『こういうのやってみて』で終わるんですよね。行かなきゃ教えてもらえないからずっと継続が難しい」
最後は焼き鳥らしく、焦げ目をつけて完成です。
氏家詢くんの母 華奈恵さん
「やきとり。お肉食べる?喜んでんの。いい顔してる」
在宅訪問管理栄養士 塩野崎淳子さん
「格段に生活の質・楽しみがアップできたときにはすごくやりがいがありますし、在宅の栄養指導の目的は栄養指導がなくなることだと思います。ご家族が自分たちで嚥下食も作れて血糖値のコントロールもできる食事が用意できるようになったら、私はいらなくなる。そうすると私の仕事なくなるんですけどね…でもそれが最終的な目標です」