日韓関係で懸案となっている元徴用工問題をめぐり、韓国政府は6日、日本企業に命じられた合計約4億円に上る賠償金を、韓国の財団が日本企業に代わって賠償金を支払う解決策を正式に発表しました。
朴振(パク・ジン)外相:「政府傘下の日帝強制動員被害者支援財団が、強制徴用の被害者・遺族支援と被害救済の一環として、原告の方々に判決金および遅延利子を支給する予定です。今回の解決策が、韓日両国にとって、反目と葛藤を越えて未来に向かう、新しい歴史の機会の窓になるよう願います。これが最後の機会だと思います」
もともと問題がこじれたのは、1965年の日韓請求権協定で解決済みとする日本政府の立場と、個人の請求権は消滅していないという韓国司法の意見が相いれなかったこと。
韓国の財団が賠償金を“肩代わり”することで、解決を図ろうというものです。
日本政府の受け止めも肯定的です。
岸田総理:「今回の韓国政府の措置は、日韓関係を健全な関係に戻すためのものとして評価しております。こうした措置を評価するとともに、日韓関係が前に進むことを期待する。そのために意思疎通を続けていく。それに尽きると思っています」
韓国側の発表文には“新たに日本の謝罪を求める”というような文言は入っていません。
日本政府も、これまで歴代政権が表明してきた“反省と謝罪の立場”を踏襲すると表明しました。
もちろん、これで万事解決というものではありません。
朴外相は、解決策をこんな言葉で表現しました。
朴外相:「コップに例えると、水が半分以上たまった状態だと思う」
“コップの水はまだ半分程度”。真意はというと。
韓国政府関係者:「財源は韓国企業であれ、日本企業であれ、自発的な寄与を前提としている。日本政府も、日本企業の寄与には反対しない立場だという。今後、私たちが求めるのではなく“期待”するのだと思う」
財源となる民間企業からの寄付。ここには、日本の民間企業の“自発的な協力”を期待していると述べています。
コップの残り半分を埋められるかは、日本次第だということです。
林芳正外務大臣:「一般に民間人、または民間企業による国内外での自発的な寄付活動等について、特段の立場を取ることはありません」
ただ、たとえ寄付という形でも、日本企業は、直接財団に金を拠出することに慎重です。
経団連・十倉雅和会長:「(Q.日本の企業がある程度、資金を出すことは必要だとお考えか?)個社の考え方はあるかと思いますが、経団連としては、我々はそれはないと思っています。韓国の財団に入るとか、そういうことは考えてもいません」
別の基金設立などの案が現実的かもしれません。
財界関係者:「日韓は、経済安全保障だとか少子化とか共通の課題を抱えているので、まずは共同研究みたいなことをやったらどうかなという話はある。それにはお金がかかりますから、日韓で出し合うと。基金ありきではなく、共同研究の延長線で」
ハードルという意味では、韓国国内の反発を抑えられるかが尹政権のカギです。
原告側の弁護士:「政府案について、肯定的な意思を示した原告は半数以下です」
韓国政府は説得を続けるとしていますが、原告側の理解を得られるかは未知数です。
原告の一人・梁錦徳(ヤン・グムドク)さん(93):「悪いことをした人、日本からもらうべきでしょう。物乞いをしてまで受け取りたくないです。(Q.お金は受け取らない?)ええ。今すぐ飢え死にするわけじゃないし、必ず謝罪が先です」
野党側にとっては、政権をたたくかっこうの材料です。
野党『共に民主党』李在明(イ・ジェミョン)代表:「大統領にお聞きします。一体この政府はどの国の政府ですか。我々は日本の戦争犯罪に免罪符を与える、あらゆる試みを決して座視しません」
下手をすれば、尹政権の致命傷になりかねない解決案。それでも日本との関係改善を進める背景は、核・ミサイル開発を加速させる北朝鮮の存在があります。
文在寅(ムン・ジェイン)政権が与えた5年間の“猶予”は、脅威のレベルを数段上げただけでした。
日米韓でいっそうの連携強化が求められるなか、日韓の雪解けは待ったなしの状況です。
6日の解決策発表後、両国の関係改善はすぐに形になって現れました。
日本が韓国に実施していた輸出管理の強化については、解除に向けた協議を近く開始すると発表。韓国は、WTOへの提訴を中断したといいます。
来週後半にも尹大統領が来日し、首脳会談を行う方向でも調整に入りました。
尹大統領:「きょう解決策を発表したのは、未来志向の韓日関係に進むための決断です。韓日関係が新しい時代に入るためには、未来世代が中枢的な役割を果たすよう、両国政府が努力しなければならない」
背景にあるのは、国際情勢だけではありません。
ソウル支局・河村聡記者:「日本に対する国民の感情が改善していっているなか、今なら致命的なダメージにならないという、政府の読みも背景にあるとみられる。特に若い世代では、政治の問題に興味を示さなかったり、知ってはいても生活とは切り分けて考える傾向がある。そんななか、日本への旅行や映画、お酒なども今大ブームとなっている」
日本には6日も、韓国からたくさんの観光客が訪れていました。
韓国人観光客(21):「済州島に行くより、異国情緒を楽しめて、値段も安い」
韓国人観光客(27):「韓国は日本文化が好きなので、常にブーム。今の人は柔軟に考えています」
今、韓国では日本のマンガ『スラムダンク』の映画が公開されています。
日本の作品としては、6年前の『君の名は。』を抜き、歴代トップの観客動員数となりました。
なぜ今、日本の映画なのでしょうか。
韓国人(26):「すごく面白かったです。最近は突然、何かの力で強くなる物語が多いですが、一昔前の作品だから、一緒に努力して、血と汗を流して成果を得る。健全な精神で教訓を得られる部分が、一番面白かったです」
これまでの観客数から見込んだスクリーンの数は、すぐに足りなくなりました。
映画館関係者:「(前例から)観客数50万を予想していた。こんなに好評だとは思わなかった」
先月、韓国の経済団体が行った調査では、若い世代の日本に対する印象は「肯定的」が42.3%と「否定的」の17.4%を大きく上回っています。
韓国人観光客(20代):「面と向かって『何で日本に行くの?』と言う人はいなくて」「インターネット上だけだと思う」「実際に出会う日本人は親切だし」「最初からそう思っていたけど、政治的な問題で優先していた感情が変わっただけ。時代も変わって薄れている」
3月1日は、韓国では独立運動記念日です。
反日感情が高まるため、この時期、日本を訪れる人は減る傾向にありましたが…。
韓国人観光客(22):「悩んだけど(日本に)来たくて来ました。コロナで長い間、来られなかったので、どうしても来たくて。友達へのお土産で、靴下と箸を買いました。韓国での流行りはこれ(ポムポムプリン)。韓国にないものを買おうと」
元徴用工問題の解決策についても、半数以上が日韓関係にプラスの影響があると受け止めています。
韓国の学生(18):「(Q.反対集会を見てどう思う?)自分の考えなので、やりたい人はやって、関心がなければやらなければいい。参加しようとは思わないです」
韓国の学生(18):「私の両親は日本を好きではないが、少しずつ若い世代になって、日本と交流をしながら、日本の文化にも接するようになり、少しずつ拒否感が少なくなってきているように感じる」
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