韓国では、高齢者に対して地下鉄無料制度が実施されている。しかし、市の財政を圧迫していて、ソウル市では、通常料金の値上げ計画を発表するなど、社会にひずみが生じている。
■地下鉄 “無料制度”で危機…経営を圧迫
優先席に腰を下ろす一人の男性。パク・ギュンスンさん(71)だ。
パクさん:「少し疲れますが、本当に良い仕事です」
彼は今、まさに仕事中なのだ。実は韓国では、65歳以上の人は無料で地下鉄に乗ることができる、国が定めた制度がある。
パクさんは、これを利用し、花や書類、小包などを地下鉄で配達する仕事「シルバー・デリバリー」として働いている。
福祉事業として位置付けられたこの仕事。パクさんは、多いときで月に70万ウォン、日本円でおよそ7万円を稼ぐという。
しかし、高齢化が急速に進み、地下鉄の経営を圧迫している。
パクンさん:「地下鉄が有料になったらと思うと不安です。他の仕事を考えないといけません。高齢者の仕事なのに、働く場所がなくなってしまいます」
無料制度は維持するが、一部の都市では、大幅な料金引き上げか、無料の対象年齢引き上げを考えている。
■財務省高官「地方自治体の責任は明らか」
こうしたなか、ソウル市は去年12月、地下鉄料金を最大30%引き上げる計画を発表。地下鉄を運営するソウル市の市長は、引き上げ率を最小限にとどめるため、政府に対し支援を求めた。
韓国ソウル市 オ・セフン市長:「我々は、政府に完全な支援を求めているわけではありません。少なくとも、いくらかの援助があれば、運賃の値上げを最小限にすることができます」
これに対し、韓国財務省は、次のように話す。
韓国財務省高官:「地下鉄の運営は、地方自治体の責任であることは明らかです。ソウルの場合、国よりも財政状態がはるかに強固。国にこの責任を取れというのは、少し行き過ぎだと思います」
一方、大邱(テグ)市や大田(テジョン)市は、無料制度の対象年齢を徐々に引き上げ、最終的に70歳以上とする案を検討すると表明している。
■年間で“約2万人”…“約390億円”の損失
韓国の65歳以上の人に対する、地下鉄無料制度を詳しく見ていく。
当時の全斗煥(チョン・ドファン)大統領が65歳以上を対象に、地下鉄の無料制度を始めたと、コリアヘラルド紙は伝えている。これが1984年のことだった。
当時は高齢者の人口比率が低く、地下鉄路線も少なかったため、負担は少なかったそうだが、聯合ニュースによると、65歳以上の人口割合は1984年の4%から、今年は17.5%まで増加していて、負担が大きくなっているという。
そのため、おととしソウル市では、年間でおよそ2億人の高齢者が地下鉄を無料で利用し、およそ390億円の損失が発生したという。
これについて、ソウルの都市問題を調査・分析するソウル研究所は、地下鉄を無料で利用できる最低年齢を70歳に引き上げれば、損失を25%から34%軽減できると分析していると、連合ニュースは報じている。
■“適用年齢”引き上げられない理由は…
しかし、無料で利用できる最低年齢を簡単には引き上げられない事情もあるようだ。
コリアヘラルド紙によると、韓国政府はこれまで2017年、2019年、2020年と3度にわたって、最低年齢の引き上げを検討するも、その度に高齢者団体からの反対があり、実現できなかったという。
こうした高齢者団体の代表格ともされているのが、「大韓老人会」という組織で、福祉施設の建設、高齢者の就職支援などを行っているそうだ。
韓国全土の6万7322カ所に支部を置いていて、会員数は、非公表だが300万人といわれている。
この300万人という数は、韓国の全有権者のおよそ7%を占めるため、韓国経済新聞によると、大韓老人会は政治的にも大きな影響力を持っているという。
特に、保守である尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領にとって、高齢者は重要な支持基盤となっている。
そのため、ロイター通信によると、与党内から地下鉄無料制度を少しでも縮小すれば、来年の総選挙に不利に働くと警戒する声が上がっているという。
(「大下容子ワイド!スクランブル」2023年2月21日放送分より)
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