◆食品を受け取りに来た人
「ミカンもらっていい?ホウレン草も1つください。年金暮らしに助かる。私より年配の方がたくさんいて、(ここを)教えてあげたら、すごく喜んでいる」
◆食品を提供しに来た人
「たくさん物が集まって」
◆伊東風花さん
「今日、めっちゃ来ました。何か持ってきたんですか?」
◆食品を提供しに来た人
「これを持って来ました」
◆伊東風花さん
「ありがとうございます」
◆食品を提供しに来た人
「ショウガ湯とアメ。頂き物で、自分では使わない。ここに置いていたら、誰かに食べてもらえるので良いと思った」
1月14日、福岡県太宰府市の住宅街に登場したのは、「みんなの冷蔵庫」。
その名の通り、誰もが利用できる公共の冷蔵庫で、地域住民が家庭で余った食品を持ち寄り、必要とする人が持ち帰ることができる仕組みです。
約1カ月で300組以上が訪れました。
生活の手助けになることはもちろんー。
◆食品を提供しに来た人
「(ニンジンとダイコン)どこに置こうか」
◆伊東風花さん
「こんなに沢山!」
◆食品を提供しに来た人
「B級品を譲ってもらえないかということで(店に掛け合い)、『型が小さいものがたくさんあるので、どうぞ』ということで、いただいた」
この取り組みは、フードロスの削減にもつながっています。
「みんなの冷蔵庫」を設置したのは、なんと現役の高校生。
太宰府市に住む、福岡農業高校3年の伊東風花(いとう・ふうか)さんです。
調理師を目指し、「食」を専門とした学科に通う伊東さん。
料理の腕を磨きながら、高校の仲間たちと子ども食堂を運営するなど、食をめぐる社会課題に向き合ってきました。
◆伊東風花さん
「みんなの冷蔵庫はドイツが発祥。道の途中にあり、通りすがりの人が物を入れたり、持ち帰る仕組み。来るのに悩んだり、勇気を振り絞る感じではなく、通りかかるついでに来てほしい」
「みんなの冷蔵庫」は、伊東さんが、助成金や専門家のサポートを受けられる福岡県の取り組み「高校生チャレンジ応援プロジェクト」に応募し、実現しました。
太宰府市のリフォーム会社が好意で貸してくれた場所で、平日は放課後に、土日は朝から夕方まで訪れる人たちを迎えています。
◆楠田大蔵市長
「風花ちゃん、どうも。覚えてます?僕のこと」
◆伊東風花さん
「もちろん覚えています」
◆楠田大蔵市長
「ラブレターなんてもらったことないから」
◆福岡農業高校3年 伊東風花さん
「ラブレターじゃない(笑)」
◆楠田大蔵市長
「便箋3枚くらいあったよね」
この日訪れたのは、太宰府市の楠田市長。
実は伊東さん、このプロジェクトを企画するにあたって、楠田市長に手紙を出していました。
そこに綴られていたのはプロジェクトへの熱い思いと、協力を求める声です。
◆楠田大蔵市長
「なんで手紙を書いたの?」
◆伊東風花さん
「直接話すと市長の雰囲気に飲まれて、言いたいこと言えないという不安から」
◆楠田大蔵市長
「悪い人みたいに言わないでよ!」
◆楠田大蔵市長(インタビュー)
「取り組みは素晴らしいし、それを高校生が1人で実行に移している。できる限り力になりたいと思った」
もちろん市長は、市の職員からの気持ちも持参していました。
(太宰府市役所職員からの提供品を伊東さんへ渡す)
こちらは伊東さんが、「高校生チャレンジ応援プロジェクト」に応募した時のプレゼンテーションの映像です。
◆伊東風花さん(去年7月の映像)
「何より『みんなの冷蔵庫』を通して、今まで苦しい生活をしてきた人が少しでも楽になるように…(言葉に詰まる)すみません。恵まれた環境にいる私たちが、貧困者の存在を身近に感じて、もっと気軽に支援できる環境が広がってほしいと強く思っています…(顔を両手で覆って)もう、すみません」
伊東さんが、「みんなの冷蔵庫」実現に込めた、ある強い思いとはー。
◆伊東風花さん
「私の姉はシングルマザーで、毎日仕事も子育ても頑張っているのに苦しい生活で、努力が報われないというのがすごく悔しくて。姉は頑張っているのに、なぜなんだろうって」
伊東さんの姉・有希さん(30)と、娘の明来ちゃん(3)です。
◆伊東風花さん
「気になるものは何個でも持って帰っていいよっていうシステム」
◆風花さんの姉・有希さん
「すごいね」
◆有希さんの娘・明来ちゃん
「迷っちゃうね」
3歳の娘を女手一つで育てる有希さん。
アパレルメーカーでフルタイムで働いていますが、生活は厳しく、一時は家賃や光熱費も支払えない状態に。
娘にご飯を食べさせるのが精いっぱいで、自分自身は食事もままならない日が続きました。
◆風花さんの姉・有希さん
「生活のレベルがだんだん落ちていく。洗剤が買えなくなって、ごみ袋が買えなくなって」
(冷蔵庫からトマトを渡す風花さん)
◆風花さんの姉・有希さん
「トマト!」
◆伊東風花さん
「どうぞ~」
◆風花さんの姉・有希さん
「ありがとう、すごいね」
◆風花さんの姉・有希さん(インタビュー)
「ここで(食品を)もらう・もらわないに関係なく、人と話したりとか、安心する拠り所だと思う」
経済的な支援だけでなく、誰もが集える心のよりどころにも。
◆伊東風花さん
「生活に困っている人が(利用する)というイメージが定着しているが、そうではないことをわかってもらいたい」
◆70代の男性
「トマトもらいに来たよ。おいしいっちゃん、これ」
◆伊東風花さん
「どれがいい?」
◆70代の男性
「ありがとう」
◆1人暮らしの大学生
「今からバイトなので、ミカンもらっていきます」
◆伊東風花さん
「バイトは何をしているんですか?」
◆1人暮らしの大学生
「そこの飲食店で働いている」
◆伊東風花さん
「頑張ってください!」
◆1人暮らしの大学生
「ほぼ毎日通るので。明太子をバイト先に持っていたらすごく好評で、もう1個もらっていいですか」
◆伊東風花さん
「どうぞ!どうぞ!」
◆1人暮らしの大学生
「ありがとうございます」
◆1人暮らしの大学生(インタビュー)
「毎日来たいと思うくらい温かい。地域の方と交流が最近なかったので、気軽に声をかけてくれるのが嬉しかった」
しかし、伊東さんの1番の願いは、この「みんなの冷蔵庫」が世の中から「なくなること」だといいます。
◆伊東風花さん
「“みんなの冷蔵庫”がなくても、人と人とが直接助け合ったり物を交換したりして、自発的に生きやすい環境にしていく世の中になっていってほしい」
(TNC報道ワイド「記者のチカラ」 2023年2月10日OAより)