円安につながる金融緩和をなぜ続けるのか。政府や日銀は、ひとつには「賃金の上昇」を実現するためだとしてきましたが、では、日本の賃金の現状はどうなっているのか、世界との比較でみていきます。
■30年間横ばいの日本の平均賃金(年収)
まず、年収ベースの賃金ですが、この30年間、他の主要国が上昇している中で、日本だけは横ばい状態が続いてきました。そもそも円安とは関係なく、日本の賃金は上がってこなかったわけです。
■円安により、日本の最低賃金(時給)が相対的に低下
そんな中、急激な円安によって各国との差が開いているのが、時給ベースの最低賃金です。欧米諸国の最低賃金を日本円換算で見ていきますと、ドイツが1522円、イギリス1586円、オーストラリア2004円、などとなっていて、最も高いルクセンブルクですと、2280円になります。(※世界経済フォーラムまとめより換算)
これに対し、日本の最低賃金は全国平均で961円と、ルクセンブルクの半分にも及びません。また、アメリカのカリフォルニア州は2216円。ファストフードの従業員については、労働条件を改善するために、さらに3249円まで引き上げることを可能とする法律が、9月、成立しています。
■日本円は他の主要通貨と比較しても大幅値下げ
各国との差がここまで広がった理由は、円の価値がドルに対して3割近く下がっただけでなく、他の国の通貨に対しても軒並み下がっているからです。
今年初めから比較すると、ユーロやイギリス・ポンドに対しても1割前後下がり、アジアの通貨でも、例えばベトナム・ドンに対して2割ほど下がっています。
■円安の影響で、日本で働く外国人労働者に“日本離れ”の動き…
日本での賃金が世界と比べて低くなることは、日本に出稼ぎに来ている外国人労働者の収入にも打撃を与えます。最も多い45万人が入国しているベトナム人の労働者で考えてみますと、例えば、10万円を母国に仕送りして現地通貨のドンに両替した場合、去年ですと、2000万ドンになりましたが、今年は円安の影響で、およそ15%も目減りしてしまうのです。
ベトナム人労働者をサポートする一般社団法人日本アジア青年交流協会によれば、実質的に給料が減る事態を受けて「日本よりも他国で働くことを希望する人が増えた」と言います。
■1ドル=150円ラインは大きな境目
さらに、中国との関係でも、今回の円安のレベルは大きな意味を持つ可能性が指摘されています。中国と言えば、各国の企業が製造業の拠点を置くなど、かつては日本よりも圧倒的に労働者の賃金が安い国でした。しかし、この10年、中国の製造業の平均賃金は倍以上も上昇。逆に日本の賃金は、円安によって相対的に下がってきたわけです。経済評論家の加谷珪一さんは、今回の円安、1ドル=150円のラインについて、「国ごとの生産コストを比べる指標でみると、中国と日本の賃金が逆転する」と指摘。そうなると、日本に来ていたベトナムなどの外国人労働者が、より高い給料を求めて中国へと流れる懸念があるといいます。
円安が過度に進むと、日本は、貴重な労働力を失う可能性もあるのです。
(「サンデーモーニング」2022年10月23日放送より)
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