侵攻から半年“南部攻防”が激化…クリミア半島で爆発が起きた背景は?専門家に聞く(2022年8月16日)

侵攻から半年“南部攻防”が激化…クリミア半島で爆発が起きた背景は?専門家に聞く(2022年8月16日)

ロシアによるウクライナ侵攻開始から半年が経過しようとしているなか、現在の戦況は、南部での攻防に移りつつあります。

ウクライナは南部で着々と奪還地域を増やしていて、ロシアに占領されている州都へルソンの年末までの奪還を目指しています。

反撃の原動力となっているのが、アメリカから提供されている高機動ロケット砲システム『ハイマース』です。ウクライナメディアによりますと、ドニプロ川に架かる橋をハイマースで再び攻撃。ロシア軍の補給路が利用できなくなりました。

ハイマースは、遠方の標的をGPS誘導弾で正確に攻撃できます。相手の後方拠点をピンポイントで無力化することが可能で、ロシアの民間軍事会社『ワグネル』の拠点の破壊にも成功したようです。

ただ、戦地に投入できるハイマースの数は十分ではありません。加えて、ロシア側も部隊の再編成を進め、南部の防衛力を増強しています。つまり、さらなる戦争の長期化は避けられない状況です。そうしているうちにロシアは、住民向けにパスポートを発行するなど“ロシア化”を着実に進めていきます。

ウクライナの頼みの綱は、欧米からの支援が途切れないこと。

ゼレンスキー大統領:「ウクライナへの軍事援助を増やさねばならない。武器が強く広範囲で使えるほど、この残酷な戦争は早く終わるだろう」

必要なのは武器だけではありません。戦争の長期化を見据え、イギリス軍はウクライナ兵の訓練を今後も続けていく方針を発表しました。

2014年にロシアに一方的に併合されたクリミア半島。前線から遠く離れたここでも、ロシア側に損害が出ています。

1週間前には基地で爆発があり、ロシア軍の戦闘機8機が破壊。16日にも弾薬庫などで大きな爆発がありました。もしこれがウクライナ側の攻撃だとすれば、侵攻開始から半年で、初めてクリミア半島に攻勢を仕掛けたことになり、新たな局面を迎えることを意味します。

同じ南部にあるザポリージャ原発でも緊張が続いています。ロシアが掌握しているヨーロッパ最大の原発周辺に連日のように攻撃が行われています。

EU(ヨーロッパ連合)やアメリカなど42カ国はロシア軍に対して、原発から即時撤退することを求める共同声明を発表。ただ、ロシア側はウクライナによる攻撃だと主張しています。

プーチン大統領は相変わらず、西側諸国への批判を繰り返しています。

プーチン大統領:「(アメリカなどは)独立国家を脅し、自分たちの意思に沿うよう、他人のルールに従うよう強要している。支配を維持する目的のために、そんなことが行われている」

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ロシア・ウクライナ双方に大きな被害が出ています。

ウクライナ側では、民間人の犠牲が5500人以上。兵士の犠牲は6月時点で1万人を超えています。侵攻したロシア側にも甚大な被害が出ていて、兵士の死傷者は7~8万人に上っているとされています。

◆防衛省防衛研究所の兵頭慎治さん

(Q.ロシアの侵攻からまもなく半年が経ちます。どう受け止めていますか?)

まもなく半年経ちますが、半年経ってもこの戦争の出口が全く見えません。犠牲が拡大するなか、この戦争に対する関心の低下が気掛かりです。

(Q.戦闘がウクライナ南部に移っている背景は何ですか?)

ウクライナ軍が南部で集中的に反転攻勢をかけようとしています。そこには2つの理由があるとみています。

1つは、ロシア軍が東部ドンバス地方の完全制圧を目指しているため、ウクライナ軍は南部を攻撃することで、ロシア軍の兵力を分散させる狙いがあると思います。

もう1つは、南部のヘルソン州やザポリージャ州で、ロシアの通貨ルーブルの導入など、ロシア化の動きが着実に進んでいて、9月頭にも編入に向けた住民投票が行われるとみられています。こうしたロシア化の動きを早く阻止するためにも、ウクライナ軍は南部への攻撃を強化せざるを得ないと思います。

(Q.クリミア半島のロシア基地で起きた爆発についてどうみていますか?)

爆発があったのは、ロシア海軍の黒海艦隊に所属する航空部隊の基地ということです。航空写真などを見ると、少なくとも8機程度のロシア軍機が破壊されていて、クリミア半島の航空戦力にダメージを受けているとみられています。

今回の爆発について、ロシア側は「弾薬庫の爆発事故だ」として攻撃とは認めていませんが、アメリカなどのメディアは「クリミア半島の中にウクライナの特殊部隊、あるいはウクライナ寄りの勢力がいて、内部からの破壊工作を行っているのではないか」という見方が強まっています。

事実上、ロシアに併合されているクリミア半島の中で工作が行われているとなれば、ロシアは認められないし、今後の戦況に大きな影響を与える可能性があります。

ゼレンスキー大統領はこれまで、当初の戦闘目的は「開戦前の状況に戻す」ということで、クリミア半島の奪還までは短期的な目標として掲げていませんでした。今回、ウクライナ軍が何らかの形でクリミア半島に攻撃したとなれば、これまでのウクライナ側の短期的な攻撃目標にクリミア半島も含まれることになります。

今回、ロシア側は強く反応していませんが、クリミア半島の中での破壊工作が続いていった場合には、プーチン大統領がどのような反応をしていくのかも気になります。

(Q.プーチン大統領は15日「ドンバスを一歩一歩解放している」と発言しました。南部にはあまり触れず、東部に焦点をあてた発言の意図は何ですか?)

プーチン大統領の発言からは2つの意味が読み取れると思います。

1つは、引き続きドンバス地方の完全制圧。中でもドネツク州はまだ完全制圧ができていないので、ここを最優先に考えていることが確認できます。

2つ目は「一歩一歩解放している」という表現です。ロシアは拙速することなく、長期戦の構えで、時間をかけながら東部2州の完全制圧を行っていこうという意図があると思います。

ただ、ウクライナ軍はハイマースなどを使って効果的な攻撃をしていて、ロシア軍も東部2州に戦力を集中させることが難しくなっていて、東部と南部に武器と兵力を分散させながらの対応を余儀なくされている状況だと思います。

(Q.今後のポイントはどこですか?)

ロシアは、9月に“政治の季節”に入ります。9月11日に統一地方選挙があり、色んな選挙が行われる予定です。これに合わせた南部2州の編入に向けた住民投票も行われるのではないかという観測もあります。

統一地方選挙で、プーチン大統領率いる与党が圧勝した場合、強気のウクライナ政策を展開していく可能性があります。クリミア半島の攻撃もエスカレートしてくると、これまで踏み込むことができなかった、いわゆる“戒厳令”も国家総動員という形で、兵力を大幅に増強する可能性も出てきます。

9月以降のプーチン大統領の反応を注目していく必要があると思います。

(Q.無関心になっていくと、ロシアに利することになりますか?)

戦争が長期化するなか、ロシア・西側の我慢比べのようなところがあります。ロシアも経済制裁を受けていますが、西側もウクライナに長期的な支援を続けざるを得ません。

欧米諸国は選挙などを抱え、国内の圧力も高まっていくため、長期戦ではロシアの方が分があると、プーチン大統領は認識しているのではないかと思います。
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp

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