「持たず、作らず、持ち込ませず」。世界で唯一の被爆国である日本が戦後から今日に至るまで堅持してきた「非核三原則」が永田町で議論の的になっています。一体その背景には何があるのか、国民はどう捉えているのか。最新の世論調査のデータを用いつつTBS報道局の後藤俊広政治部長に話を聞きます。(聞き手:渡部峻キャスター)
--ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、日本の政界でも安全保障の論議が活発に沸き起こっています。この週末には自民党の高市政調会長が「非核三原則」のうち“持ち込ませず”について党内議論を始めたいという考えを示しましたね。
政治家は週末にテレビなどの場で発信をしますが、今回は高市さんが日曜の民放のテレビ番組でこんな発言をしています。「この非核三原則を守るのか、それから国民の命を守るのかという厳しい状況になったとき、この判断をやっぱり時の政権がして議論は縛っちゃいけないと。やっぱり有事のとき『持ち込ませず』っていうところについては自民党内でも私は議論したいと思います」。つまりこの3原則の中で「持ち込ませず」ですよね。そこの部分については自民党として議論していくのだと。この発言が重いのは、いまの高市さんの立場が党の政策を担う政調会長だということです。党幹部がそういったことを言ったということは、おそらく本格的議論を進めて行くんだと思います。
高市さんがなぜこうした発言をしたのかを考えると、1週間前に安倍元総理が“核シェアリング”=核共有について発言したことと繋がります。安倍元総理は議論をタブー視すべきではなく、要するに議論すべきだという姿勢です。それを党幹部として支援する形で今回高市さんが発言したのだと思います。
自民党内の議論は進むとは思いますが、複雑なのは広島県を地元とする岸田総理。広島県は先の大戦で被爆した爆心地でもあります。そうしたことから岸田総理は非核について非常に強いこだわりを持った政治家だと感じます。実際今年の初め、結果的に延期され実現しなかったのですが、NPT=核不拡散条約の国際会議への出席に意欲を示したとか。岸田総理はなかなか自分のこだわりが見えづらい政治家と言われますが、核への向き合いは明確だと感じます。
--岸田総理の「核への向き合い」は政治信条として?
そうですね。政治信条の根幹の一つが「非核」ではないかとみています。実際、安倍元総理が発言した翌日に国会の場で野党議員から質問を受けた際に「自国の防衛のために米国の抑止力を共有する、そういった枠組みを想定しているものであるとしたなら、これは認められないと認識をいたします」と答弁しています。岸田総理にとっては核共有の議論を行うこともNOだという発言だったと思います。夏に参院選挙を控えていることから、こうした議論をすることが選挙戦にプラスに働くか、あるいはマイナスにあたるのか選挙を仕切る党幹部は考えています。
--岸田総理と高市さんの考えは違うニュアンスを感じますが、自民党内の情勢は?
おそらく考え方として、積極的に議論を行うべきという考えと、非核三原則を堅持すべきだという考えが二極化していると思います。選挙を見据えた中で、安全保障に関してはこれまで自民党の方でもタカ派的な政策は選挙では控えてきました。実際今回の核共有の議論については、ある自民党幹部は「選挙対策的にはこの議論をされることが良いかどうかっていうと微妙だ」と複雑な胸の内を語っています。世論がどう受け止めるのか、政権の中、自民党内でも慎重に見極めているのが今の状況だと思います。
安倍元総理や高市さんが議論を進めようと積極的になっている背景には、世論の関心があるということも無視できません。今週末JNNが世論調査を行いましたが、世論調査の結果をいくつか紹介します。まずロシアによるウクライナへの軍事侵攻について、今後中国による台湾や尖閣諸島での「力による」現状変更につながる懸念があるかどうかという問いに対して、実に「非常に懸念がある」「ある程度懸念している」の答えが8割を超えています。今回のウクライナ侵攻に関しては日本の多くの人たちも対岸の火事という見方をしていないと感じます。(中国が)尖閣周辺だけでなく台湾海峡にも軍事的なプレゼンスを続けていく中で、世論のかなりの部分はそうした現状への不安を示しているのではないかと感じます。
--「非常に懸念がある」「ある程度懸念している」「あまり懸念していない」「全く懸念していない」4項目の中で「非常に」という一番強い回答が多くなるのは新鮮な印象です。
中国も習近平主席を含めてロシアの軍事侵攻を注視していると思います。おそらく中国の首脳部が国際的な軍事展開をする中で、今回の軍事侵攻を一つのケーススタディにしているのではないかと思われます。一方、日本側も中国が今回のケースを注視しているという現状を踏まえてどう対応していくか、そういった議論が高まっていることも事実だろうと思います。
もう一つ世論調査結果を紹介します。先ほど安倍元総理の発言に出てきた“核共有”に関して「核共有に向け議論すべき」と答えた人が18%で、結果を見たときに「こんなにあるんだ」という率直な感想を抱きました。また、「核共有はすべきではないが議論はするべき」が60%ということで、計8割近くが核共有を議論すべきだという結論になっています。安倍元総理は世論を読むのに非常に卓越した政治家ですから、そういったことも踏まえて高いボールを投げているのではないかと思います。
--6割の人が「核共有はすべきではないが議論はすべき」と回答したのは、難しいニュアンスだと思いますがどういった議論をするべきなのでしょうか。
核共有という概念は日本に馴染みのあるものではありません。実際核共有を導入しているのはNATOです。つまりアメリカを中心とした軍事同盟であるNATOのような特殊な状況下で行われています。また、核共有を行った場合かなりのデメリット、リスクが生じます。こういった点についてもより細かく具体的に議論していく必要はあるなと思います。
--NATOという軍事同盟の中でということですが、日本も日米同盟がありますが違う同盟の形に話が進む可能性もあるのでしょうか。
NATOは純粋な軍事同盟なので、日米安保条約を中心とした日米同盟の枠組みが本当にイコールなのかという議論はありますし、自民党の防衛大臣経験者も核共有に対して慎重な見方をする人はいます。そういったことがありますから、いま世の中を覆っている不安は直視しながらも、こういった時だからこそ政治家には冷静な議論が求められると改めて感じました。
(07日20:00)
#非核三原則 #ウクライナ侵攻 #ロシア
#後藤部長のリアルポリティクス